わが国経済は長きにわたり低迷している。政府は、幾度となく経済政策を取りまとめ、その実行に努めてきたが、低成長・低所得から一向に抜け出せていない。わが国の長期低迷の背景にはデフレマインドの定着に伴う需要不足の長期化がある。マクロ経済では可処分所得が増えなければ支出は伸びず、支出が伸びなければ所得も増えない。日本の家計は可処分所得が減少しており、消費を増やす余力はない。
長期停滞の最大の原因は国際標準から逸脱した緊縮的な財政運営にある。これにより、成長に必要な財政支出がなされず、マクロ経済が支出と所得の両面で下押しされ続けてきた。企業においても、需要不足による国内市場の縮小を受けて、設備投資を減らし海外進出を進めたが、それがさらなる需要不足を招き、賃金も低迷が続いた。
低成長・低所得を打破するには、経済が過熱するまで積極的な金融・財政政策を継続しなければならないだろう。これまで日本では、政府債務の拡大を理由に緊縮的な財政運営がなされてきた。しかし、政府債務の裏には必ず資産がある。事実、政府純債務が拡大する中で民間純金融資産も増加を続けてきた。そして足元では円安の恩恵等もあり、政府純債務はコロナショック以前から20兆円近く減少しており、日本国債の格付け見通しも引き上げられている。
このように、日本で財政危機が生じる可能性は極めて低い。政府支出の制約となるのは英国のような経済の過熱であり、相対的に需要不足の続く日本では財政支出の余力は大きい。このため、日本の低成長脱却に必要なのは高圧経済である。高圧経済とは、金融政策と財政政策に特化して需要不足の状態から需要超過の状況にすることである。
しかし日本の場合、マクロ経済学的にはほぼ限界に近いところまで金融政策をやりつくしている。そのため、財政政策をもう少し積極的にしなくてはならない。米国のように経済が過熱している国では、これ以上財政を放出するとインフレがさらに進むため注意が必要だが、日本の場合は需要不足の状況にあるため、もう一段の財政政策が可能だ。
ただ、日本のように消費性向が低い国で給付金などをばらまいても消費には回りにくい。今は感染症や戦争といった100年に一度起こるような事態に直面している。これを経済構造を変える契機だと捉え、例えば環境やデジタル分野、ウクライナ危機によって明らかとなった軍事、食料、エネルギー、戦略物資など安全保障分野の規制を緩和して、官主導による長期的視点で減税や補助を行い、需要を喚起すればよいのではないか。こうした政策は、成長力を強化するとともに、足元のエネルギーや食料価格の高騰によるコストプッシュ型インフレの抑制にもつながるだろう。
また、低所得脱却のためには、高圧経済による需要増加を賃上げにつなげる必要がある。経済の過熱状態をしばらく容認して労働需要を積極的につくり出すほか、労働市場の流動性を高め、民間部門に賃金上昇圧力をかけることも有効だろう。普通の国であれば高圧経済を行えば経済は過熱し、給料も上がっていく。しかし、日本の場合は高圧経済だけでは賃金まで波及しない。海外に比べてメンバーシップ型雇用が多いため労働市場の流動性が低く、企業が賃金を上げなくても従業員が辞めにくい仕組みになっているからだ。そのため、日本では高圧経済と労働市場改革の二本立てで経済の好循環を作り出す必要がある。食料やエネルギーの自給率を上げ、生産拠点を国内回帰させるとともに、労働市場改革に取り組めば、物価上昇も抑制することができて、消費を促すような環境が整ってくるだろう。