経済正常化まで高圧経済を続けることでマクロ経済が好転すれば、日本企業も投資の拡大や賃上げを迫られることになり、消極的な企業は成長機会を逸し、人材確保もままならなくなるだろう。このため、日本を成長軌道に戻し長期停滞から脱却させるためには、グローバルスタンダードな経済財政運営へとかじを切らなければならないだろう。
この20年で、日本の政府債務残高は1.8倍に増えているが、拡大ペースはG7諸国の中で最低である。米国と英国が5倍以上、フランス、カナダが3倍に対して、ドイツ・イタリア・日本など第二次世界大戦の敗戦国はあまり増えておらず、ドイツ2倍、イタリア1.9倍となっている。
日本政府は歴史的に財政政策にアレルギーを持っている。しかし、政府が国債発行をしてお金を使えば、国内で使われた分は民間の資産となる。つまり、米英はこの20年間で政府債務を5倍に増やし、その分民間資産を増やしたことになる。一方で、日本は1.8倍しか政府支出を増やしていないため、相対的に民間資産も増えていない。また、財政を使うのであればできるだけ需要喚起効果を高めるために、お金を使った人が得をするような減税政策を取り入れるべきなのだが、日本政府は減税もやりたがらない。
このように日本は「財政均衡主義」だが、グローバルスタンダードでは「最適財政論」という「政府債務は減らすことが是とは限らない」という考え方が一般的だ。つまり、政府債務はマクロ経済の物価や雇用を安定させるために適切な水準にコントロールすべきものとされている。そう考えると、需要不足が続いている今の日本には政府債務が足りていないことになる。
日本以外の国では企業が投資超過主体としてお金を使うため、政府債務をそこまで増やさなくてもある程度経済は安定するのだが、日本はバブル崩壊後、マクロ経済政策を誤ったために、民間部門がお金を溜め込むようになった。そんななかで経済を安定化させるには、政府が呼び水となって民間部門の経済を回すしかない。経済が冷え込んで金融政策も限界に近い国は政府債務を賢く増やさなくてはならないという事だ。ただ、日本には他の国と違って国債償還60年ルールがあり、普通の国では利払い費のみである国債費の中に国債償還費も含まれている。こうしたルールがあることによって、政府は財政均衡主義を貫こうとしている。この考えを変えないと、日本が低成長・低所得から脱却するのは難しいだろう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)
<参考文献>
21世紀政策研究所 研究プロジェクト「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」報告書(2022年6月)