NECの量子コンピュータ、世界市場で先行者利得獲得へ…生産計画工数を90%削減

 2010年以降、NECは生き残りをかけて構造改革を進めている。ポイントは、パソコンやスマホなど民生用のハードウェア製造事業の縮小と、産業と社会インフラ分野への選択と集中だ。2011年にNECはパソコン製造事業を切り離し、レノボとの合弁企業傘下に移管した。また、国内工場の閉鎖などリストラも進められた。捻出された経営資源をNECは社会インフラ事業など、強みを発揮できる分野に再配分した。それによってNECは生き残りを目指そうとしている。

 そのなかでも、量子コンピュータ関連事業の重要性は一段と高まっている。それは、社会インフラと産業分野で新しい成長の柱を確立し、米中のIT先端企業などとの競争に対応するために必要な要素の一つだ。大きな事業戦略の方向性として、コスト面で新興国などの企業に優位性のある民生機器の製造よりも、先端分野でのソフトウェア、その実装を支える新しいハードウェアなどの創出に集中することは、中長期的な成長を支えるだろう。ただ、今のところ、そうした取り組みが十分な成果を発揮しているとはいいづらい。過去10年間、NECの株価はTOPIXの電気機器指数の上昇率を下回った。

徹底強化が必要な量子コンピュータ事業

 NECがどのように高い成長を実現するかは、先行きは楽観できない。主要投資家は、NEC経営陣が不退転の決意を固め、さらなる構造改革を推進することができるか否かに注目しているといえる。そのために、量子コンピュータ関連事業の運営体制の強化、研究開発や実証実験などは加速されるべきだ。今後の事業戦略の一つとして、NECは量子コンピュータ関連の技術を軸に、事業ポートフォリオの再編を進めることが予想される。

 注目したいのは、NTTなどとの連携強化の可能性だ。NTTはNECと資本・業務面で提携した。また、NTTは富士通とも業務面での提携を進めている。それは、電電ファミリーと呼ばれたNTTを中心とする国内通信、エレクトロニクス関連企業の連携再興を意味する。いずれにも共通するのが、量子コンピュータに関する取り組みである。NTTは米航空宇宙局(NASA)などとも量子コンピュータ関連の開発に取り組んでいる。富士通も量子コンピュータの実用化に取り組み、暗号技術の安全性評価などで成果を上げ始めた。実用化に時間とコストのかかる量子コンピュータ関連分野でNECはそうした企業との連携をさらに強化する可能性は高い。それは、より新しいシミュレーションなどのサービス、それを支える機器の創出に資すはずだ。

 2019年、グーグルは最先端のスーパーコンピューターで1万年かかるといわれた計算を、量子コンピュータを用いて約3分で解いたと発表した。その後、世界の量子コンピュータ分野での開発競争は米国が先行し、中国が追いかける様相は一段と鮮明となっている。しかし、2010年頃までNECをはじめ国内企業は量子コンピュータ関連で米中以上の特許を出願していた。世界経済の先行き不透明感上昇など楽観はできないが、経営陣が明確に量子コンピュータ関連技術を成長の軸に位置づけ、経営資源のよりダイナミックな再配分、他企業との連携強化などを強化することができれば、NECに挽回の余地はあるのではないか。株価の推移をみる限り、経営陣のより強いコミットメントによって組織全体が量子コンピュータ分野での成長をより強く志向する展開に注目する主要投資家は多いようだ。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)