10月、インボイス制度開始で「宅配」崩壊危機…未曾有のドライバー不足に突入か

 売上高1000万円以下の軽貨物配送業者、つまり売り手側にこれまで免除されていた消費税が負担としてのしかかってくるというのが、やはり最大のポイントですね。なぜなら軽貨物配送業者の取引相手の大半は、ヤマト運輸や佐川急便、アマゾンといった大手企業であり、彼らは適格請求書発行事業者としか取引をしたがらない可能性があるからです。今後も消費税を免除されたいからと適格請求書発行事業者の登録をしなければ、仕事がなくなってしまうかもしれません。

 つまり、売上高1000万円以下の軽貨物配送業者は、ある意味、否応なく消費税を支払わされるかたちになるということ。一例ですが、税込の売上高が990万円だった場合、これまでは免除されて手元に残っていた消費税90万円を、支払う必要が出てきてしまうということです」(同)

 こうした事態を受けて、売上高1000万円以下でフリーランスの軽貨物配送業者がたどる道は大きく分けて2つしかないという。

「ひとつは、もはや避けようがないこの状況において、文句を言いつつも適格請求書発行事業者として登録して消費税を払うことを受け入れるという選択肢。この場合、これまで支払っていなかった消費税を支払うことになるわけですから、収入が減ることになります。収入の減少を避けるためには、買い手側に対し運賃の値上げ交渉を行う必要がありますが、簡単ではないですし、買い手側が運賃値上げを受け入れてくれるかどうかは未知数です。

 もうひとつは、フリーランスを辞めてどこかの企業に雇用してもらうということ。要するに、かつて自由を求めてフリーランスになったドライバーたちが会社員へ戻るという選択肢です」(同)

買い手市場や消費者にも大きな影響

 インボイス制度は軽貨物配送業者ら売り手だけではなく、業務委託をしているヤマト運輸、佐川急便、アマゾンといった買い手側にも深刻な影響を及ぼすという。

「先ほど、売り手側のインボイス制度導入によるダメージをご説明しましたが、実は買い手側にもダメージはあります。それはドライバー不足。フリーランスの軽貨物配送業者が会社員になってタクシー運転手のような他業種に転向してしまう可能性があり、そうなるとただでさえ配達人員が不足しているというのに、さらに追い打ちをかけられる事態に陥るわけです。

 ですからヤマト運輸、佐川急便、アマゾンなどの買い手側は、宅配の効率を向上させ、ドライバーが減少しても、荷物を届けることができるよう、さまざまな取り組みを行っています。アマゾンの『Amazon Hub』、ヤマト運輸の『PUDO』などの宅配ロッカーは、配達効率を上げ、再配達をなくすことで、ドライバー数が減っても、配達数を維持するための試みです。ただし、こういった宅配ロッカーは、インボイス制度に嫌気が差して、軽貨物配送から身を引くフリーランスに対する完全な代替手段にはなりえません。買い手側にとっても悩ましいことでしょう」(同)

 インボイス制度で軽貨物配送業者が他業種へ転向するケースが増えれば、消費者にも、配送料の値上がりや商品到着までの時間が延びるなどのデメリットが発生するかもしれない。今年10月から導入されるインボイス制度は、多くの人に影響をおよぼしそうだ。

(文=A4studio)