10月、インボイス制度開始で「宅配」崩壊危機…未曾有のドライバー不足に突入か

インボイス制度開始で「宅配」崩壊危機
「gettyimages」より

 昨年11月にTwitter上で、今年10月1日から導入される仕入税額控除などに関する「インボイス制度」に関するつぶやきが注目を集めた。5000以上の「いいね」を獲得したそのツイートは、「SNSでの話題を見ていると、どうしてもフリーランスのクリエイター系の事例ばかりが問題視される印象があるが、この制度の導入は物流業界にも深刻な影響をもたらし、荷物が手元に届かなくなるかもしれない」という趣旨のものだった。

 そこで今回は、インボイス制度の導入が物流業界にどんな影響をもたらすのかについて、物流ジャーナリストの坂田良平氏に解説していただいた。

フリーランスを圧迫するインボイス制度

 坂田氏に話を聞く前に、まずはインボイス制度の仕組みをおさらいしておこう。

 インボイス制度というのは、10月1日から導入予定の仕入税額控除のための新たな仕組みのことを指す。2019年に消費税率が8%から10%へ引き上げられ、さらに消費税の軽減税率制度が導入されたことで、8%と10%の消費税率が混在するようになったが、こうした状態だと、経理業務で消費税率計算を間違い、ビジネス上でトラブルが起きかねないばかりか、消費税がきちんと納税されないといった事態も懸念される。

 そこで、売り手が買い手に対し正確な適用税率や消費税額などを伝えるために、それらに関する一定事項が記載された請求書や納品書である『適格請求書(インボイス)』を発行してクリアにしましょう、というのがインボイス制度の目的というわけだ。

 この制度で問題視されているのが、売り手と買い手双方に関わる免税の問題だ。ちなみに、今回のテーマである宅配業界でいえば、売り手とはフリーランスの配送ドライバーなどの軽貨物配送業者を指し、買い手とはヤマト運輸、佐川急便、アマゾンなどを指すことになる。

 まずは買い手側目線から見ていこう。これまで買い手には消費税の二重課税を防ぐための仕入税額控除という仕組みが存在していた。しかし、買い手がインボイス制度導入後もこれまで通り仕入税額控除を受けるには、売り手側が税務署に適格請求書発行事業者として登録してインボイスの交付を受け、それを保存する必要が出てきたのだ。この適格請求書発行事業者の登録というのが厄介なのだ。

 それを説明するために、次に売り手側目線を見ていこう。これまで年間売上1000万円以下の事業者は、原則として消費税の納税義務が免除されていた。しかし、今後もこの免除を受けるには適格請求書発行事業者に登録をしないという選択を取る必要がある。逆にいうと、適格請求書発行事業者に登録すれば、これまでどおりお得意先である買い手側との取引はスムーズになるが、今まで免除されていた消費税を納める必要が出てきてしまったというわけだ。

会社員に戻ることを誘発する可能性

 さて、ここからは話を物流業界に戻していこう。坂田氏によれば、インボイス制度で影響が如実に出てくるのは、主に宅配業界だという。

「物流業界といってしまうと、いささか主語が大きすぎると思います。というのも、物流業界全体で宅配業界が占める比率は、正確な統計データが存在しないため、あくまで推計ではありますが、重量ベースで国内トラック輸送においては最大でも3.8%ほどと意外にも多くないからです。インボイス制度で影響を受けるのはあくまで宅配業界が中心。さらにいえば、売上高1000万円以下の『軽貨物自動車運送 』事業者(以下、軽貨物配送業者)です。そして彼らに業務委託をしている業界大手のヤマト運輸や佐川急便など、そして軽貨物配送業者と直接取引する『Amazon Flex』という仕組みを始めたアマゾンなども影響を受けます。