運動前のストレッチは「やらない」が正解だった…なぜ無意味&かえって体が損傷?

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「gettyimages」より

 今からちょうど10年前に出版した拙著『ほどほど養生訓、実践編』(日本評論社)のなかで、「準備運動としてストレッチの重要性が強調されている。しかしストレッチでケガや病気が予防できるというエビデンスはない」と述べました。最近、欧米のメディアで、これと同じことを報じた記事が増えていますので【注1,2】、その背景を探ってみました。

 ストレッチにもいろいろな方法があります。大きく分けて静的ストレッチと動的ストレッチですが、ここでは前者のこと、つまり「反動や動きを伴わず、持続的に関節や筋肉を伸ばす方法」についてです。いわゆる準備運動の一つで、学校の部活などでも、下図のような方法を教わったのではないでしょうか。

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 そのストレッチが体に及ぼす影響がいろいろわかってきました。結論を先に言えば、「ストレッチはやらないほうがいい」ということです。まず、体がまだ温まっていない状態で関節の腱や筋肉を無理に延ばすと、体の組織が損傷を受けてしまいます。このことは、スポーツジムに定期的に通っている私にも経験があります。あるとき1週間ほどジムに行けないことがあり、再開した日、休んでいた分を取り戻そうと、ストレッチの時間をいつもより長めに、丁寧にやりました。翌日、アキレス腱が痛みとともに腫れてしまったのです。関節には、骨と骨が潤滑に触れるようにするための軟骨や、骨と骨をつなぐ靭帯があり、さらに筋肉が跨るように付着しています。それらが、いきなりの伸展で損傷してしまうのです。

 ストレッチが教育で強調されてきたのは、運動中のケガを予防するためでした。運動をする前の準備として、関節を延ばしておけば安心できる気がしたからでしょう。ところが、事前にストレッチをした場合と、しなかった場合を比べる大規模調査が数多く行われ、ケガをする割合にまったく差がないことがわかりました【注3,4】。

 それどころか、意外なデータもありました。体が温まっていない状態でのストレッチ体操は、体内で余計なエネルギーを消費させ、たとえば記録を競うような運動をする前に行うと、むしろ結果に悪影響を与えてしまうという調査結果です。ただしスポーツの専門家が口をそろえて強調しているのは、準備体操がいらないということではなく、体を温めるための動作、つまりウォーミングアップは必要だということです。

なぜ突然死は朝方と夕方に多い?

 次に、準備運動を別の視点から考えてみます。スポーツと健康との関係を考える上で重要なのは、「突然死」の問題です。体の不調が突然、起こる理由のひとつが自律神経のバランスの乱れです。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があり、前者は主に日中、優位に働いていて、仕事などでエネルギーを消費する活動をコントロールしています。一方、副交感神経は、食事をするとき、あるいは夜、眠るときに中心となって働いており、いわばエネルギーを蓄える役割を担っています。

 突然死に限らず、病気の多くは、この2つの自律神経が切り替わるとき、つまり夕方と朝方に起こることがわかっています。具体的には、一日の仕事が終わり、あるいは学校の授業が終わって、お風呂に入りながら「あ~、ごくらく、ごくらく」などと言っているようなときです。このような時間帯に運動する人は、とくに注意が必要です。昼間の怒りや不安などの興奮が収まっていない状態では、交感神経が優位となっています。そんな状態のまま運動を始めるのが危険なのです。

 私のお勧めは、運動を始める前に、心の興奮を鎮め、副交感神経モードに切り替えることです。私は、これを「心のストレッチ」と呼んでいます。心の問題は人それぞれですから、とくに決まった方法があるわけでなく、音楽を聴くなど自分自身で工夫していくしかないのですが。