それに、もともとサイゼリヤのスパゲティメニューは安いですからね。たとえば『ペペロンチーノ』は1皿300円(税込、以下同)とリーズナブルで依然として破格です。たとえ大盛りを廃止したとしても、こうした基本的な安さを貫く姿勢は変わりませんから、熱烈なファンならサイゼリヤに通い続けるのではないかと思います。実際、ネット上では『サイゼがこれでいいならついて行くよ』といった肯定的な意見も数多く見受けられますし、もしかしたらサイゼリヤはファンとの絆の強さを信じて大盛り廃止に踏み切ったのかもしれませんね」(同)
たしかに今まで150円でできていたパスタの大盛りカスタムが、急に250円に上がったとしたら、「安い」というブランディングにヒビが入ってしまう可能性もあったのかもしれない。ところで大盛りの廃止でこれほど騒がれているのだから、ファンのサイゼリヤに対する思いはかなりアツいことがうかがえる。なぜ同社はこれほど熱烈なファンを獲得できているのか気になるところだ。
「やはり、サイゼリヤが安さと美味しさを両立したブランドとして、人々の信頼を勝ち取っているからに尽きますね。同時に、サイゼリヤが進めている味へのこだわりが功を奏し、『サイゼリヤでしか食べられない味』が確立され、替えの効かない存在になっているのも大きな要因のひとつでしょう。
売り切れ続出となった羊串『アロスティチーニ』(400円)のように、日本人に馴染みのないイタリア料理を続々と紹介してくれる楽しさも、ファンの心を惹きつけていますよね。季節ごとにどんな新作メニューが登場するのか、心待ちにしているファンも少なくないでしょう。
また、サイゼリヤでしか食べられない味と言いましたが、これには『自分好みの味に改良できる楽しさ』も含まれます。店内の一角には、粉チーズやシチリア産の海塩、唐辛子フレーク、特製ホットソース、オリーブオイルなどの調味料が並んだコーナーが用意されており、これを駆使して自分だけの一皿を作るファンも多いんです」(同)
またサイゼリヤが安さと美味しさへのこだわりを貫ける理由には、イタリア料理というジャンルに特化した戦略が大きいという。
「日本においてイタリア料理そのものの土壌と市場の大きさが、サイゼリヤにとって追い風となり続けているのでしょう。一見すると日本で珍しいとされるメニューの開発にはコストがかなりかかると思うかもしれません。しかし、日本人にとっては珍しいメニューや食材であっても、本場イタリアでは食堂などで庶民が当たり前のように食べているポピュラーなものもあるので、材料コストは意外と高くならないというケースが多いと思います。
また、すでにイタリアにある美味しい料理をメニューのベースにしているので、商品開発の手間が省けるのも強みです。加えてパスタ、ピザ、ドリアといったイタリアンの定番は、汎用性が高くソースや具材を変えるだけで新メニューにできるわけです。こういったイタリア料理自体のポテンシャルの高さこそが、サイゼリヤ最大の強みなのではないでしょうか」(同)
重盛氏は「サイゼリヤは今後も大幅な値上げはしない可能性が高い」と予想するが、低価格帯路線は維持しつつ顧客満足度を高め、『安いのに珍しくて美味しいものが食べられる店』としてブランドを強化していってほしい。
(文=A4studio)