イタリアンファミリーレストラン「サイゼリヤ」の発表を受け、ファンの間で激震が走った。2022年12月12日、サイゼリヤはスパゲティメニューの「大盛り」と「おこさま」サイズの提供終了を発表したのである。サイゼリヤでは、大盛りだと通常サイズに150~200円ほどプラスして麺とソースの量を1.5倍にでき、「おこさま」だと量を半分にして価格も安くすることができる。ネット上では、この発表に「値上げをしてもいいから大盛りを残してほしかった」といった意見があがっており、ファンの間では「大盛り」のカスタマイズが愛されていた様子がうかがえる。
コロナ禍や物価高騰による影響で業績不振が続くファミレス業界。今回の発表も時流に沿ったものだが、実は近年のサイゼリヤの業績自体はそこまで悪いものではない。売上高を見てみると、コロナ禍前の19年8月期は1565億円だったのに対し、22年8月期は1443億円となっており、完全回復とはいいがたいがコロナ禍以前の9割ほどの水準まで戻っている。営業利益も22年度は4.2億円で20年度から続いていた赤字を脱しており、順調に経営を立て直している。したがって業績を踏まえると、「大盛り」などの廃止を残念がる声が出るのもわかる気はする。
そもそもサイゼリヤは「安さ・お得さ」を主軸にコストパフォーマンスに見合う美味しさを提供していることから、熱烈なファンが多いことでも有名なファミレス。昨年7月27日に日本生産性本部サービス産業生産性協議会が発表した「JCSI(日本版顧客満足度指数)」でも、サイゼリヤは2年連続で飲食部門の「顧客満足度」1位を記録しており、高い評価を集めている。
そういった背景もあり、大盛り継続を望むファンは少なくなかったようだが、なぜサイゼリヤはやめる決断に至ったのか。今回は外食事情に詳しいフードアナリストの重盛高雄氏に、大盛り・おこさまサイズ廃止の経緯やサイゼリヤの狙いについて話を聞いた。
サイゼリヤはなぜ「値上げ」ではなく「廃止」という選択肢を選んだのか。
「やはり世界情勢の悪化に伴う原材料高騰が原因でしょう。サイゼリヤの公式サイトでも『品質の安定が困難なため』と説明されているので、ほぼ間違いないかと思います。しかし、値上げではなく、あえて廃止という方向に舵を切った背景には、別の意図があったと考えられます。それは廃止で生まれた余剰分の予算を、新たな商品開発などに充てること。言うなれば『味へのこだわり路線』へシフトしていこうという戦略が透けて見えるのです。
これまでのサイゼリヤの客層は、高校生や大学生などの若い世代がメインでした。そうした若い世代は大人になると、外食選びの場面でそれまでより高級な店を選びがちになり、サイゼリヤは選ばれづらくなってしまう傾向にあります。そうなると、同社は新たな若い世代をメインに据えざるを得なくなり、ビジネス的な広がりが膠着してしまうのです。
ですが『味へのこだわり路線』へシフトすることで、大人になってからも来店しやすくなり、これまでメインではなかった中高年層も徐々に取り込んでいくことをサイゼリヤは狙っているのでしょう。実際、近年のサイゼリヤは女性客や中高年のお客が増えた印象があり、すでに効果は出ているように思えます」(同)
路線変更戦略が見え隠れするサイゼリヤだが、大盛り継続を願うファンとの間に溝が生まれてしまわないだろうか。
「たしかに大盛りカスタムを好んで通っていたという一部のファンとは、溝が発生してしまうかもしれません。ですが今回あくまでも廃止を選び、値上げしなかったのは、これまで価格の安さに魅力を感じていたお客のために、わざわざ値上げをしてまで大盛りを提供したくなかったからだとも考えられます。『味へのこだわり路線』へと変わりはしつつも、これまでサイゼリヤを育ててくれたお客に対して、売りとなっていた安さを捨てるわけにはいかないと判断したのではないでしょうか。