麻生太郎氏「中学校の義務教育廃止」提言が孕む危険性…日本人の学力格差の実態

 この結果から、確かに麻生氏のおっしゃるように、日本の学力水準はまだまだ高いですし、誇るべきことでしょう。けれど、読解力分野では課題が見られること、社会経済文化的背景の水準が低い生徒ほど習熟度レベルが低いということも指摘されており、『現状の教育水準が高いから学ぶ量を減らしてもいい』とはなりません。むしろ現在生じている『教育格差』をさらに拡大しかねないと思います」(同)

今の義務教育のおかげで日本人の学力水準は高い

 麻生氏は、藤井聡太棋士を例に出し『若いうちからもっと専門性の高い分野に向けて精進するのもひとつの道ではないか』とも語っていた。

「教育の分野では特定の職業との結びつきが強い専門教育と、特定職業目的に結びつく恐れのない普通教育の2分野があり、中学校までの義務教育では普通教育が重視されています。そして、確かに『普通教育が重視されすぎているので、より専門教育に力を入れていけばいいのでは?』という提言にかんしては、大いに議論の余地はあるかと思います。

 けれど麻生氏の講演での発言は、『学校教育は小学生までで、あとは各々勝手に学べばいい』というような、国の教育責任を放棄しているようにも聞こえてしまうのです。例えば義務教育を短くせずとも、義務教育に専門スキルを持った教師を組み込んでいく法整備をしていくことで、専門教育を充実させて若い才能をより早く開花させるような制度設計もありうるのですが、そうしたことを想定している発言とは思えません」(同)

 では仮に麻生氏の言うような「義務教育は小学校まで」が実現してしまうと、どんな事態が引き起こされるのか。

「今の日本は深刻な経済格差・教育格差が進行しており、金銭的な余裕がなく学校生活を十分に送ることが難しいために高校を中退してしまう子も少なくありません。義務教育を小学生までにしてしまったら、この構造がそのままスライドし、中学中退といった子も多く出てくるでしょう。子どもたちに教育機会をきちんと保障しないことは、これからの日本を支える国民が育たないことを意味し、国にとってもデメリットではないでしょうか。唯一メリットを挙げられるとすれば、教育にかける国家予算を減らせるということだけです。

 義務教育というのは、学力を身につけるだけではなく、判断と選択をする力を養う期間でもあります。そして、間違いなく日本の義務教育制度は関係者の献身的な取り組みの下でこれまで高い成果を上げてきたと私は考えています。それをさらに充実させこそすれ、縮小するのはおかしな話です。麻生氏にはこれを機に、目先の事象だけを見て発言するのではなく、教育はさまざまな事象に連鎖していく根本の部分だということを知っていただき、考えを改めてもらいたいですね」(同)

 義務教育の在り方が未来の日本を大きく左右することは間違いない。

(文=A4studio)