あとは、3DCGは複雑なアクションシーンでもキャラクターを崩れさせずに動かすことができるから、という理由もあるでしょう。手描きでは難易度がかなり高くなるダンスシーンなども、モーションキャプチャー(演者の動きのデータを採集する方法)した動きのデータを3DCGに反映させることで画の崩れがなく、かつ比較的楽に作れるようになり、ぐっと制作の敷居が下がりました。手描きのハードルが高い部分をこなれてきた3DCGが補完することで、3DCGが使われる領域がどんどん広がってきたわけです」(同)
だが、近年3DCGアニメが多く制作されているのは、こうした技術面・企画面以外にも大きな理由があると藤津氏は指摘する。それは日本のアニメそのものを取り巻く状況の変化だ。
「それはズバリ、手描きのアニメーター不足です。昨今は世界的に動画配信プラットフォームが増え、日本のアニメに対するニーズが増えたこともあり、アニメ制作現場が飽和状態になっているのです。そういう状況で、フリーランスの手描きアニメーターは確保が難しい状況が続いています。さらに企画が多いため、従来の手描き中心の制作スタジオも数年先まで予定が埋まっているところが増えました。この変化のなかで、3DCGの制作スタジオもそれまで培ったノウハウを背景に、TVシリーズや映画を手掛けるケースが増えてきたのです。もちろんそこには3DCG会社が、会社としてステップアップを考えた部分もありますが。
なので現在は企画の方向性によって、手描き中心(3DCGはあくまで補助)、手描きと3DCG(ダンスなどのシーンなどを中心に手掛ける)が柔軟にミックスされたもの、登場するキャラクターのほとんどを3DCGで描いたもの、という大きくわけで3つのスタイルが混在する形になったのです」(同)
ところで、先ほど「フリーランスの手描きアニメーター」という言葉が出たが、なぜアニメーターにはフリーランスが多いのだろうか。
「1970年代初頭に、手塚治虫さんが創設に関わった虫プロダクションが倒産したり、東映動画(現・東映アニメーション)が大規模なリストラを行ったりしたことで、多くのアニメーターがフリーとして活動をするようになったのです。ここをきっかけに、アニメーターはフリーランスで活躍するものという業界傾向が強まり、今なお続いているのです。世間によく知られているスタジオジブリや京都アニメーションといった制作会社は、手描きアニメーターを正社員として雇用していますが、むしろそういうスタイルのほうが業界的には稀な存在ですね」(同)
また、出資者側からするとこうしたフリーランスのアニメーターを中心とした制作体制を組むよりも、3DCG会社組むほうが大きいメリットもあるという。
「アニメ制作業界は、1人が1カ月働いた作業量を1として計算する“人月(にんげつ)”計算が前提の業界なので、基本的に社員で制作している3DCGアニメを多く手がける会社は、スケジュールが想定しやすいのです。これは、フリーのアニメーターを集め、個別に対応していく従来のスタイルよりも、ずっと制作上のリスクは低くなります」(同)
そんな3DCGアニメだが、一部のアニメファンからは「動きに違和感を覚える」など否定的な意見が挙がることも多い。
「よくネットなどで『キャラの動きや髪・服といった質感に違和感がある』という指摘を見ますが、手描きアニメも実際の人間の動きや質感とはだいぶ異なり、かなり省略されたり記号化されて描かれています。むしろCGアニメのほうがリアルな動きに近い表現をしていることも多いです。