ここへきて、ニトリのビジネスモデルは大きな転換点を迎えている。これまで、同社はコストの安いアジア新興国で家具を生産し、それを国内で販売するビジネスモデルを確立してきた。原材料調達、製品の製造、運送、販売までのサプライチェーンを確立、強化した。それによって、同社は価格競争力を高めた。国内に加えて中国や米国などでも事業を展開した。円高が進んだことも同社の業績拡大に大きく貢献し2022年2月期まで35期連続で増収増益を達成した。しかし、円安の進行などにより、業績拡大の勢いが弱まる恐れが高まっている。
そして今、同社は日本を代表する家具小売企業から、世界経済のダイナミズムとしての役割期待が高まるアジア市場有数の家具小売企業への飛躍を目指している。背景の一つに、インドやアセアン地域への直接投資が増え、中長期的な経済成長期待が高まっていることは大きい。東南アジア地域を中心に需要を優位に取り込むために、ニトリは構造改革を加速させている。それがどのように業績の拡大に寄与するかが注目される。
ニトリは自社のビジネスモデルを製造物流小売業と定義している。同社は消費者が買ってもいいと思う価格から逆算し、コストと品質に見合った資材を調達する。資材はアジア各国にある工場(委託先を含む)に直送される。完成した家具などは、ニトリが自前で構築した物流システムによって日本に向けて出荷されてきた。ニトリは物流拠点の増設とその機能強化などによって一連のサプライチェーンを強化した。
それを支えた要因の一つに、世界経済のグローバル化がある。1990年代初頭、冷戦の終結によって世界各国の国境のハードルは下がった。クロスボーダーでのヒト、モノ、カネの移動が活発化した。企業は、最も生産コストの低い場所でモノを作り、需要が旺盛でありより高い価格で販売できる市場で供給する体制を構築しやすくなった。
それに加えて、1985年のプラザ合意以降、円の為替レートはドルに対して上昇傾向で推移した。円高の進行は日本の輸入物価を押し下げる。例えば1ドル=200円の時、100ドルの製品の輸入代金は2万円だ。円高が進み1ドル100円になれば輸入代金は1万円に低下する。ニトリは似鳥昭雄会長の判断で巧みに円高に対応した。ニトリはグローバル化の加速を追い風に、売り上げの増加とコスト削減の取り組みを強化し、「お、ねだん以上。」の価値観、満足感を創造した。
しかし、ここにきて同社を取り巻く事業環境は大きく変化している。その一つとして、世界経済の状況はグローバル化から脱グローバル化に転じた。背景には、米中の対立、コロナ禍の発生、ウクライナ危機など複合的な要因が重なる。感染対策のための移動制限、ウクライナ危機後のロシアからのエネルギー資源などの供給減によって、世界的に供給体制は不安定だ。中国以外の国と地域で物価は高騰し、企業のコストは増加している。コンテナ輸送料金上昇などコストプッシュ圧力は想定されたよりも強い。円安も逆風となり、2022年度第2四半期、ニトリの連結営業利益は前年同期を下回った。
海外でコストを抑えて新しい家具などを生み出し、国内需要を取り込むというニトリの事業運営体制は転換点を迎えている。成長を加速するために、ニトリは思い切って事業運営戦略を転換し始めた。それが中国を含むアジア新興国地域への出店強化だ。2021年度決算資料では2025年度までに中国、台湾、東南アジアなど海外店舗数を280にする計画を示した。2022年度第2四半期の決算資料では、米国事業の撤退も表明された。同社のアジア市場重視姿勢は鮮明だ。