現在、多くのビジネスパーソンが働き方の変化に直面している。コロナ禍以降は「リモートワーク」や「ジョブ型雇用」といった言葉をよく聞くようになったが、それ以前から進められているのが、いわゆる「働き方改革」だ。その中でも、長時間労働を是正し、労働生産性を上げるために有効な施策が「勤務間インターバル制度」である。同制度の要諦や導入のポイントについて、労働経済学が専門である高崎経済大学経済学部の小林徹准教授に話を聞いた。
――勤務間インターバル制度は、労働時間ではなく休息時間に焦点を当てた制度です。なぜ、この時期に導入が必要なのでしょうか。
小林徹氏(以下、小林) 勤務間インターバル制度は、働き方改革を達成するための手段のひとつだと思っています。主たる目的は、労働者の健康維持と疲労蓄積による生産性低下や体調悪化による離脱防止です。
たとえば、プロ野球では先発投手が中5日や中6日で登板するサイクルが一般的ですが、これも勤務間インターバル制度と同じ考え方であり、先発投手の働き方を配慮した仕組みです。東京ヤクルトスワローズの場合、昨年は先発に配慮し今年は中継ぎ投手も連投させずにインターバルを設ける方針でチーム運営をし、昨年は日本一に輝き、今年もセ・リーグ優勝という成果を出しています(10月5日現在)。
――勤務間インターバル制度を導入すれば、おのずと労働時間の総量規制にもつながるという見方はできますか。
小林 その一面もあると思います。勤務間インターバル制度を導入したことによってどんな効果が出たかというアンケート調査では、残業時間や休日労働が減少したという回答がトップでした。労働時間の総量規制もひとつの効果と考えられますが、働き方改革総体にしても、勤務間インターバル制度にしても、労働者の健康維持と疲労蓄積防止がなされないと、政策目的は果たされないと思います。
――労働者の健康悪化は生産性を低下させますね?
小林 実際の職場を調べた海外の研究(Colleweta and, Sauermann,2017, Pencavel,2016)では、長時間労働による疲労蓄積で生産性が低下することが指摘されています。日本でもアンケート調査による研究だけでなく、この観点からのアプローチが必要だと思います。労働力人口が減少していく中で生産性低下を防ぐことは重要な課題だと思います。
しかも、健康問題が発生して働けなくなれば、労働力人口が非労働力人口に移ってしまい、ますます労働力人口の規模が縮小してしまいます。マクロ経済では「資本」と「労働」が二大生産要素として考えられていますが、疲労による生産性低下や「労働」が縮小すると、マクロの経済規模を維持できずに、国や社会が貧しくなっていきます。
――勤務間インターバル制度の導入で、どんなメリットが生まれるのか。よく聞かれるのは離職率の低下ですが、小林先生のご見解はいかがでしょうか。
小林 直接的なメリットは離職率の低下や生産性の向上ですが、そこから派生する間接的なメリットもいくつか考えられます。たとえば、採用コストの低下です。離職者が出れば後任の人材を採用することが多いですが、近年の求職者は、特にこれから勤続年数を伸ばし年収を高めていく若手ほど離職率を非常に気にしています。離職率が高かったり開示されていなかったりすれば応募のパイは小さくなりますが、離職率が低ければパイは大きくなって採用しやすくなる。これが間接的なメリットになると思います。
注1:非有意である箇所については、検定の結果5%水準でも有意にならず、影響がゼロである可能性も一定程度残されることを示す。
注2:「教育充実」、「社員定着」、「実力主義、成果報酬型」フラグに1が入るか0が入るかは、転職仲介業者の判断によるもの。