――メリットを評価する指標をつくる議論は進んでいるのですか。
小林 現時点ではその議論が進んでいる印象は持っていませんが、いくつかの段階で指標を置きながら、メリットが得られているかをチェックすることが重要になるでしょう。まずは「健康の維持」と「疲労の蓄積がない」という2つの変数が改善されているかを確認することが、出発点になると思います。そこから、生産性と離職率の変数をチェックしていく必要があります。
――従業員の医療費の推移も指標になりませんか?
小林 医療費を支出する事前でのチェックや対処が重要です。従業員を対象にしたアンケート調査で大量のデータを取って、国際的なストレス指標「K6」を使い、インターバル時間の変化で指標がどう変化するか、または、すでに実施されている従業員のストレスチェック結果とインターバル時間の相関を確認すると、エビデンスが取れると思います。
――EU労働指令では、勤務間インターバルが11時間と規定されています。制度のメリットを好循環させるには、何時間ぐらいが効果的だとお考えですか。
小林 仕事内容や職場の状況によってインターバル時間は異なります。そのため、各職場でトライ・アンド・エラーを繰り返しながら最適な時間を見つけていくのが理想だと思います。マクロの平均としては、おそらく12~13時間であれば労働者の健康にとって良いのではないでしょうか。
早稲田大学の黒田祥子教授と慶応大学の山本勲教授による2016年の論文で、週の労働時間が50時間を超えたあたりからメンタルヘルスが急に悪化するというエビデンスが出ています。週5日勤務で1日10時間労働になり、1時間の休憩を加算すれば、職場にいる時間は11時間です。1日24時間から差し引くと、13時間のインターバルを確保しないと悪化につながるという計算になります。
私の研究室でインターバル時間と健康の関係性を定量分析したところ、12時間のインターバルでは健康に対して有意にならず、インターバル時間が11時間以下になるにつれて健康に有意なマイナスとなり、かつ健康が悪化する度合いが大きくなる、というデータが確認されました。
――勤務間インターバル制度の導入で、実際に働き方が改善された事例を教えてください。
小林 私が興味深いと思ったのは、厚生労働省の事例集にも取り上げられていますが、特別養護老人ホームあかつき苑(東京都江東区)の取り組みです。夜勤や日勤があるため、日によって勤務時間が異なる変形労働時間制です。夜勤は職場にいる時間が長いので、1日単位のインターバルではなく、夜勤を終了したら24時間、日勤の場合は12時間のインターバルを設けています。1日単位ではない点が参考になると思います。離職率も下がったそうです。
――制度の導入に際しては、経営者が意識を変えるだけではなく、運用にコミットすることが必要だと思います。
小林 厚労省の事例集にも紹介されたJSRマイクロ九州株式会社(佐賀県)は、導入に際して社長が案を考えて人事部長に降ろし、人事部内で調整をして細かな案が作成されました。経営トップが従業員と一緒に制度を作ることが重要だと分かる事例です。この他にも、「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、勤務間インターバル制度の導入事例やお役立ち情報が掲載されていますので、是非一度ご覧下さい。また、令和4年11月29日(火)14時から「勤務間インターバル制度導入促進セミナー」が開催されます。無料でオンライン配信されますので、こちらも是非ご参加下さい。
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