ただ、この日本版HECSも大学院生が対象ということでは奨学金返済地獄対策としては限定的になり、返済地獄から抜け出せる人は一部であろう。大学院でも、修士卒の就職者が多い工学系ならともかく、文系、特に人文系では就職に苦労している現実があり、一定の所得を確保できる大学院卒の奨学金返済者がどれほどいるだろうか、という懸念もある。実質、出世払いが無理になる返済予定者が増加し、将来問題視される可能性もある。
現在、給付型奨学金だけでも、企業や自治体も含めると6000を超すという。企業では奨学金の代理返済などもあり、人材確保の手立てとしているケースも目立つ。
といっても、金額で見ると、推定で日本学生支援機構が9割を占める。同機構の場合、財源が税金ということもあって返済不要の給付型奨学金にシフトすることには抵抗があるようだ。以前、私が同機構に取材した時も、給付型を原則にすることには心理的抵抗があるように感じられた。バイデン大統領のような1万ドル(約140万円)の返済免除策にも、日本ではなかなか踏み切れないだろう。
そこで、出世払い制度の日本版HECSを大学院生だけでなく、学部生全体に広げることが考えられる。特に受験生と大学生が同時期に複数になる多子家庭には、家計の所得制限の緩和だけでなく、給付型奨学金の増額や出世払いの貸与型奨学金との併用も拡充すべきである。
多彩な奨学金制度の情報を一元化して、給付型奨学金だけでなく、日本版HECSも含めた貸与型奨学金の選択に役立つ、公的な情報提供のシステムを構築すべきだ。
奨学金希望者が、在学校、進学志望校、出身地、家庭構成、保護者などの年収を含めた家計所得、希望する奨学金の種類(企業による代理弁済タイプも含め)などの条件によって、利用できる制度を具体的にリサーチできるようにすることが必要だ。