その一例として、日本と異なり米国経済はIT先端分野で多くの企業が生み出されてきた。そうした要素を取り込むことは、セブン&アイが長期の視点で業績拡大を実現するために欠かせない。2005年には米7‐Eleven, Inc.を完全子会社化した。2021年にはマラソン・ペトロリアムが運営していた「スピードウェイ」ブランドのコンビニ事業と、燃料小売り事業を買収した。
それによってセブン&アイは、コンビニのビジネスモデルを変革するイノベーションを目指したのである。具体的には、スピードウェイのコンビニ事業に、セブン-イレブンが得意としてきたパンなどの食品事業を統合した。店舗の清掃や物流なども統一した。その上で、コンビニにガソリンスタンドやEVの充電ステーション、デリバリーサービスなどの機能を新たに結合し、消費者のニーズをよりよく取り込むビジネスモデルが構築されている。その結果、米国のコンビニ事業はセブン&アイにとって稼ぎ頭に成長した。
人口増加期待を背景に、米国におけるセブン&アイの成長の余地は大きいと考えられる。今後の事業戦略のポイントは店舗のさらなる増加だ。米国において、店舗と消費者の距離を縮めることができれば、収益獲得の機会はさらに増えるだろう。そのために、急速に事業ポートフォリオの入れ変えが進んでいる。フランフランなどの売却に加えて、百貨店事業も切り離された。他方で、セブン&アイは、国内のプライベートブランドの商品開発力をスピードウェイと結合し、米コンビニ事業の運営体制強化に一段と集中しはじめた。
やや長めの目線で考えると、セブン&アイはコンビニ事業への選択と集中を徹底して強化するだろう。米国と異なり、日本では人口が減少する。経済は縮小均衡に向かう。そうした変化に対応するために、同社はスーパーストア事業と国内コンビニ事業の融合を加速させる可能性は高い。それは、日本の小売業界の再編を勢いづかせる起爆剤になるだろう。
コロナ禍を一つのきっかけにして、人々の移動範囲は従来よりも小さくなったと考えられる。一つの大きな変化は、テレワークが当たり前になったことだ。通勤に費やす時間は減り、自宅で過ごす時間は増えた。その時間をより充実させるために、社会的な要請としてコンビニの役割期待は高まっているといっても過言ではないだろう。少し離れたスーパーで生鮮食品を購入するよりも、自宅から近いコンビニでその時に必要な食材や食品が手に入れば、生活の利便性は増す。デリバリーサービスの強化なども、よりよい生き方の実現に寄与するだろう。
このように考えると、国内小売業界では、スーパーの機能が急速にコンビニに移されていく可能性は高い。そうした変化を収益につなげるためには、より効率的なサプライチェーンの確立が欠かせない。陳列する品物の数が限られるコンビニを通して消費者のニーズをより効率的に取り込むために、セブン&アイは商品開発と物流のスピードを高めなければならない。米国でのデジタル技術を駆使したデリバリーサービスや無人店舗運営などの習熟はそれに資すだろう。
一方、国内コンビニ事業の競争力強化のための商品開発力向上は、海外のコンビニ事業の成長にも貢献するだろう。このように、セブン&アイはコンビニ事業への選択と集中を徹底して進めることによって、さらなるシナジー効果の発現を目指すと考えられる。やや長めの目線で考えると、同社が日米などのコンビニ事業で獲得した資金を、インドなど人口増加期待の高い国での事業運営に再配分する展開も予想される。それは、他の国内小売企業が自己変革に取り組む起爆剤になるはずだ。一つのシナリオとして、セブン&アイの選択と集中に触発された小売企業は、海外進出を目指して買収や資産売却を強化するだろう。それによって、これまで以上に業界再編が加速する展開が想定される。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)