日本の半導体産業の絶滅を防ぐためには小中学校での半導体教育の義務化が不可避

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 また、電気を切っても記憶が消えないメモリ(NANDフラッシュ)を発明したのは、東芝(当時)の舛岡富士夫さんという日本人であるという伝記を紹介するのもいいだろう(湯之上隆、『日本では忘れ去られた東芝のフラッシュメモリ発明者 NHKドキュメンタリー番組が紹介した舛岡富士雄氏の功績』、JBpress、2017年11月29日、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51713)。

 とにかく、目には見えないけれど、小中高大学生の皆さんの周りには、スマホ、PC、各種電機製品、クルマなどに多数の半導体が搭載されていること、その半導体なしには文化的な生活が成り立たないことなどを知ってもらい、興味を持たせる取り組みが必要不可欠であろう。

 加えて8社の半導体メーカーをはじめとする産業界では、真に優秀な技術者には、今の数倍の年俸を出すことが求められる。日本の優秀な学生が半導体技術者になろうとしても、海外メーカーのほうが報酬が格段に高い現状では、日本半導体メーカーの従事者を増やすことはできない。

教育改革は時間がかかる

 問題は、小中学生の義務教育、高校・高等専門学校の理科の教育、大学での半導体研究の奨励など、教育改革によって半導体技術者を増やすのは時間がかかるということである。しかし、いったん正のスパイラルに入れば半導体の技術者は指数関数的に増えていく可能性がある。

 教育改革によって半導体従事者を増やす「シナリオE」について、シミュレーションを行ってみた(図5)。2021年から教育改革が始まったと仮定すると、高校・高等専門学校にその効果が表れるのは、どんなに早くてもその3年後の2024年である。また、大学生に効果が表れるのは4年後の2025年、大学院修士課程には6年後の2027年、博士課程には9年後の2030年になる。

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 その学校教育による半導体の技術者の増加の「シナリオE」をグラフにしてみた(図6)。毎年3500人増加するシナリオDに比べると、シナリオEでは従事者はなかなか増えない。しかしある時点から急速に従事者が増え始め、2034年にはシナリオDを抜き去る(かもしれない)。

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まず行動を起こせ

 最後に、すべてのシナリオについて、2040年までのグラフを書いてみた(図7)。筆者のシミュレーションによれば、教育改革によるシナリオEの場合、2040年に従事者が23.57万人となり、1995年のピーク(20.62万人)を超えることになる。

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 このようにうまく行くかどうかはやってみないと分からない。しかし、毎年3500人ずつ増えるシナリオDはあり得ないため、教育改革なしでは、せいぜい毎年800人ずつ増えるシナリオCで留まるのが関の山だろう。何もしなければ、まったく増えないシナリオAや減少してしまうシナリオBになる可能性もある。

 したがって、真に「10年間で3.5万人増加」を実現させたいのなら、JEITAが提言書に書いた通り、小中高大学の教育改革を可及的速やかに、しかも大胆に行うべきである。そのためには、JEITAはもちろんのこと、メンバーカンパニー8社が小中高大学に半導体のカリキュラムを導入すべく、最大限の努力を行う必要がある。

 筆者は2012年に、故郷の静岡県島田市の全小中学校に「放射線教育」を実施させることに成功した経験がある(湯之上隆、『広域ガレキ処理で混乱した島田市の小中学校で「放射線教育」が始まった』、2012年11月20日、朝日新聞WEBRONZA、https://yunogami.net/asahiwebronza/121120.html)。筆者が島田市の小中学校の教諭に対して「放射線とその影響」についての研修会を行い、理科の教諭を中心として「学習指導要領」を手作りで作成してもらい、実際に2012年10月31日、島田市六合中学校2年生30人に対して、初めての放射線の授業が行われた。

「半導体の学校教育が必要である」と提言しただけでは半導体技術者は増えない。まず、小中学校のカリキュラムに半導体を導入するために、具体的な取り組みを開始するべきだ。したがって、JEITAやメンバーカンパニー8社に対しては、「まず行動を起こせ」と言いたい。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

【お知らせ】

12月9日(金)にサイエンス&テクノロジー主催で、『半導体不況&台湾有事の行方とその対策の羅針盤』と題するセミナーを行います。詳細はこちらをご参照ください→https://www.science-t.com/seminar/A221209.html