2017~2022年まで、従事者が800人ずつ増え続けているとすると、2022年の従事者は8.51万人になる。JEITAは、今後10年間で少なくとも3.5万人の従事者の増加が必要だとしているが、どのようなシナリオが考えられるだろうか。
・シナリオA
2022年以降、従事者数が一定で変わらない可能性が考えられる。その場合は、2032年も2022年と同数の8.51万人ということになる。
・シナリオB
半導体産業は2023年以降、不況に突入する。また少子高齢化により、高校生や大学生などの数が減るため、次第に従事者が減少する可能性も考えられる。どの程度減るのかは分からないが、2032年には8.51万人より減少している可能性は否定できない。その場合は、「10年で3.5万人増加」はまったく実現できない。
・シナリオC
2017~2019年までは毎年800人ずつ従事者が増えていた。2022年までも毎年800人ずつ増えると仮定した。そこで、2022年以降も、毎年800人ずつ増え続けるとした場合、10年後には8000人増えて従事者は9.31万人になる。しかし、JEITAが提言した「10年で3.5万人増加」に対しては、2.7万人足りない。
・シナリオD
JEITAの提言「10年で3.5万人増加」を実現する場合、2032年には8.51万人+3.5万人=約12万人になっていなければならない。2022年の8.51万人に対して、10年間で41%分の従事者を増やす必要がある。これは少し考えただけでも相当大変である。
10年で3.5万人増大ということは、1年間で平均3500人ずつ増やすことになる。2017~2022年まで800人ずつ増えると仮定したが、それを一気に4.4倍にするというのは無理ではないだろうか。図3のグラフを見ても、そのような都合の良い増やし方はあり得ないと思われる。
そして、シナリオCのように毎年800人ずつ増える保証もない。むしろ、シナリオAのように一定になるか、シナリオBのように減少する可能性もある。そのようななかで毎年3500人ずつ増やしていくというのは現実的ではない。
では、どうしたら「10年で3.5万人増加」が実現できるだろうか。
一見遠回りに見えても、学校教育の改革によってしか「10年で3.5万人増加」を実現する手段はないと思う。JEITAの提言書においても、小・中学校の義務教育に半導体の工場見学をするなどのカリキュラムを取り入れ、高校・高等専門学校では理科の中に半導体の製造過程を体験できるようなカリキュラムを導入し、大学においても半導体の研究室への支援や優秀な研究者への奨学金制度の拡充などをするべき、というようなことが書かれている。
この意見に筆者も賛成である。小中高大学、すべてに半導体教育を取り入れ、充実させることが必要であると思う。特に、小・中学校の義務教育が最も重要である。というのは、高校の段階では、すでに、どの大学のどの学部に行くかということがだいたい決まってしまうからである。
例えば、小中学生の野球少年が「将来はメジャーリーガーになって大谷翔平のように二刀流で活躍したい」と夢を見るのと同じように、「僕も私も、将来は半導体の技術者になりたい」と小中学生に思ってもらうような取り組みがなければならない。そのためには、例えば小学校の理科の教科書に、「スマートフォンには、考える小人(プロセッサ)、記憶する小人(メモリ)、人間には聞こえない声で通信する小人(通信半導体)が入っている」というような導入を行うのはどうだろうか(図4→湯之上隆、『半導体とは?簡単にまったく何も知らない人も、絶対にわかる解説をしてみよう』、ビジネスジャーナル、2018年4月24日、https://biz-journal.jp/2018/04/post_23116_3.html)。