アイシン、太陽電池にパラダイムシフトを起こす技術開発…再生エネが飛躍的発展

 製造工程は、まず、原料を含んだ溶液を金属酸化物の上に塗布し、ペロブスカイト結晶膜と呼ばれる薄い膜を形成する。その上にプラスの電気を集める層を形成することによってペロブスカイト型太陽電池は生産される。ただし、ペロブスカイト型太陽電池の生産には課題がある。特に、高い変換効率を実現する薄膜の形成技術は開発段階にあり、生産コストは依然として高い。環境負荷のより低い素材を用いたペロブスカイト型太陽電池の生産も課題であるようだ。

 アイシンは、ペロブスカイト型太陽電池の素材を均一に塗布する技術の向上に取り組み、収益源を多角化しようとしている。そのスプレー工法技術の実用化が実現すれば、住宅の屋根だけでなく外壁やドア、室内の壁などに太陽電池フィルムを張り付け、可視光線を用いた発電を増やすことができると期待される。ウェアラブルデバイスにフィルムを張り付けて、機器を使いながら発電や充電を行うことも当たり前になるかもしれない。それが現実のものとなれば、再生可能エネルギーの利用はさらに加速するだろう。その結果として、太陽光発電パネルの運搬や設置などにかかった総合的なコストは圧縮される可能性が高い。

 ペロブスカイト型太陽電池の成長期待の高さを背景に、中国では一部で量産が開始されている。しかし、均一な塗布の実現は難しいようだ。そのため、欠陥も多いと聞く。言い換えれば、アイシンによる高変換効率を可能にするペロブスカイト結晶膜の塗布技術の確立は、同社が新しい収益の柱を確立するための重要なチャンスになりうる。

注目集まる実証実験の前倒し

 今後の展開として注目されるのは、アイシンによる、より早期のペロブスカイト型太陽電池実証実験の開始だ。日本では、積水化学や東芝などがペロブスカイト型太陽電池の実用化を目指している。超高純度の半導体部材などの分野で高い競争力を発揮している日本企業も多い。アイシンの塗布技術の確立、それを用いた実証実験の早期実現は、日本の企業や研究機関の新しい取り組みが結合し、迅速、かつ、持続的な収益創出が目指される重要な契機になる可能性が高い。

 現在のアイシンには実証実験の計画を前倒しで進め、収益化を目指す力が備わっているはずだ。そう考える一つの要因に、美容機器市場への新規参入がある。9月1日、アイシンは「WINDSCELL(ウィンセル)」を発表した。ウィンセルは世界最小の微細な水粒子を肌に浸透させる装置だ。アイシンはグループ企業の経営資源を統合することによって、各組織に分散されてきた発想をより迅速に結合し、新しい需要を生み出す力を発揮しつつあると考えられる。美容機器という本業とは異なる分野での新商品開発は、素材レベルからアイシンが新しい取り組みを加速し、最終商品を生み出す力を向上させていることを示唆する。その上で新商品の投入が実現したことは、アイシン全体での権限移譲が加速していることも示唆する。

 世界経済では物価が高止まりしている。米国やユーロ圏などの中央銀行は、インフレ鎮静化のために金融引き締めを強化しなければならない。資金調達コストの増加や自動車需要の減少など、アイシンはより強い逆風に直面する恐れが高まっている。その一方、異常気象の深刻化によって、各国で発電源の多様化は急務だ。先行きの事業環境の厳しさは増すだろうが、アイシンにとって自動車部品以外の分野でビジネスチャンスは加速度的に増える可能性は高い。チャンスを確実に収益につなげるために、アイシン経営陣はこれまで以上に権限移譲などを強化すべきだ。それによって組織を構成する人々がより能動的に新しい発想の実現に取り組む展開が期待される。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)