企業の「働き方改革」が叫ばれる昨今、「限られた時間の中で最大の成果を上げる」ことは、企業やそこで働く従業員に突き付けられている課題だ。
一方、この課題は仕事に限った話ではない。「何にどれだけ時間を使うか」ということは、究極的には「私たちがどう生きるか」ということと同じだからだ。
時間術に関しては、古くから様々なノウハウが共有されてきた。世界的ベストセラー『7つの習慣(R)』で紹介された「時間管理マトリクス」は、最も有名なノウハウの一つだろう。
「時間管理マトリクス」では、あらゆるタスクを「緊急度」×「重要度」それぞれの「高低」で、4つの種類に分類する。「緊急度は低いが、重要度の高いタスク(第II領域)」に優先的に時間を割くことで、タスクの総量を減らし、時間を有効活用するという画期的なものであった。
ただし、これにはひとつだけ盲点がある。そもそも多くの人は、「重要度」を正しく見極めるための判断基準を持っていないという点である。「重要度」を正しく判断できなければ、このノウハウは単なる小手先のテクニックとなり、生産性向上は絵に描いた餅に終わってしまう。
『仕事ができる人の最高の時間術』(田路カズヤ著、明日香出版社刊)は、時間の使い方を決める前に、まず自分の「パッション(自分が情熱を持てること)」と「ミッション(自分が使命感を持って取り組めること)」を自覚するべきだとしている点で、時間術を扱う多くの本とは一線を画す。
このことによって、やるべきことの優先順位が明確になる。自分の「パッション」と「ミッション」に沿うものは「重要」だと即決できるので、「やらなくていいこと」や「付き合わなくていい人」を決断することができるのだ。
ただ、ビジネスにおいて、自分の「パッション」と「ミッション」に沿うものだけに集中することは現実的には難しい。そこで、効率的かつ効果的な「戦略」と「戦術」が必要になる。本書では、「戦略」を「資源分配の方針(What to do)」、「戦術」を「資源分配の方法(How to do)」と定義している。
一旦、数多くの「戦略」「戦術」を描いた上で、重要な「戦略」「戦術」だけに絞り込み、集中して遂行することが重要だ。それさえできれば、「そもそもやらなくてもいい仕事」や「やるべきだが、自分でなくてもいい仕事」を自分のタスクから排除することができる。
「戦略」「戦術」を見直すということは、「時間の投資先」を見直すということだ。自分にとっての「重要度」のモノサシを持つことで、ROT(時間生産性)は飛躍的に高まるだろう。
仕事に対する価値観は、「ワーク・ライフ・バランス(ビジネスとプライベートの調和)」から「ワーク・アズ・ライフ(ビジネスとプライベートの融合)」にシフトしつつある。もはや若者の中に、「仕事さえ充実していれば幸せ」という価値観は無い。
一方、深夜残業が常態化して、家族と過ごすプライベートの時間が犠牲になっている人は未だに存在する。その大きな要因は、タスク量以上に本人の時間意識にある。
どこかで「終わらなかったら残業すればいいや」という意識がある人、つまり、時間が無限にあると錯覚している人は、仕事を早く終わらせることは難しい。これは、家族と過ごす時間の大切さを自覚している人は決して持たない意識だろう。
もし、残業続きの毎日から本当に抜け出したいのなら、毎日の出社時間と退社時間を決めてしまった方がいい。そして夜に予定を入れるなり、上司や同僚にその時間を宣言するなりして、その時間に必ず帰る意思を見せること。もし、それで上司や同僚に嫌な顔をされるような職場なら、今後もそこで働き続けるかを考え直したほうがいいと田路氏は言う。