『純愛ディソナンス』視聴率等の数字は低調なのに絶賛される不思議な現象のワケ

「純愛ディソナンス - フジテレビ」より
純愛ディソナンス – フジテレビ」より

 視聴率、録画視聴率、配信再生数のいずれも今夏ドラマの最下位争いに甘んじながら、ネット上のコメントは「面白い」「中身は深い」などと決して悪くない『純愛ディソナンス』(フジテレビ系)。

 むしろ、「とても好きなドラマ」「今のところ今期1番」などと絶賛する声も多いが、「数字は一向に上がらない」という不思議な状態のまま第10話まで放送され、9月22日に最終話を迎える。

 何が最下位争いの苦境につながり、何が絶賛の理由となっているのか。最終話目前にそれを読み解き、最後の見どころを挙げていきたい。

わずかに早い吉川愛のヒロイン起用

 放送前に番組ホームページの「イントロダクション」を見たとき、瞬時に危うさを感じてしまった。そのトップには、「中島裕翔さんが初の教師役で生徒と禁断の恋……」「吉川愛さん演じる女子生徒との決して一線を越えてはいけない関係を描く」「令和の新・純愛×ドロドロエンターテインメント!!」の見出しが打ち出されている。

 まず“中島裕翔と吉川愛のラブストーリー”というコンビとジャンルで、初回の視聴者数を確保できるのか? 彼らのファン以外はほとんどの人がそう感じたのではないか。やはり結果はノーで、視聴者の絶対数が低いスタートとなり、視聴率、録画視聴率、配信再生数は、以降も低いベースで推移している。

 初回の視聴者数を確保するためには、「単純な人気が高い」か「演技の技量を認められている」か。中島と吉川がどちらか1つでも備わっていればもう少し数字は上がっただろう。しかし、民放各局のテレビマンに話を聞いても、「まだ2人ともその段階にない」という声が聞こえてくる。

 特に「わずかに早かった」と惜しむ声が聞こえてきたのが、吉川のヒロイン起用。彼女は来月でまだ23歳と若いが、中島よりも長い約20年の芸歴を持つなど世代屈指の実績を持つ。その実力に疑いの余地はなく、実際に今春放送された深夜ドラマ『明日、私は誰かのカノジョ』(MBS・TBS系)で主演を務め、虐待を受けて育ちながらもレンタル彼女として稼ぐ大学生役で称賛を受けたばかりだ。

 同作のようにハードな役柄に定評があり、ファンが増えている最中だけに、『純愛ディソナンス』も「吉川を主演に据えて次々に試練をぶつける」というコンセプトで制作し、PRする方がよかったかもしれない。

「笑いなし」リアル風味のカオス

 次に、「教師と生徒の禁断の恋」と「純愛×ドロドロ」について。

 まず「禁断の恋」は、完全に肩すかしで終わった。“教師と生徒”という禁断の関係を掲げながら、視聴者に「いけないこと」「見つかったらどうしよう」というドキドキを感じさせる背徳的なシーンはほとんどないまま、第3話序盤で「5年後」にスキップ。“教師と生徒”の関係性はアッという間に消えてしまった。

 精神的にも身体的にもセクシャルなムードがなく、かつての『高校教師』『中学聖日記』(ともにTBS系)などをイメージしていた人は物足りなさを感じたのではないか。本来はネット上のコメントが増える設定でありながら、思わず書き込みたくなるようなシーンが少なかったことが序盤の苦しい結果につながってしまった。

 ただ、「純愛×ドロドロ」という制作サイドの仕掛けが、あまり見たことのない世界観を作り、絶対数こそ多くないものの、視聴者を引きつけてきた感がある。そもそも2人の純愛が始まったのは、ともに「親との関係に悩んでいたから」だったが、そこからドロドロがスタートしている。

 序盤からエキセントリックに描かれた冴(吉川愛)の母・静(富田靖子)と、正樹(中島裕翔)の父・秀雄(神保悟志)。さらに、教師から作家に大転身し、正樹に異様な執着を見せる妻・愛菜美(比嘉愛未)。愛菜美の父で、やたら暴力的な不動産会社社長の碓井(光石研)。碓井に恨みがあり、「セカンドパートナーを探す」という妙なアプリを手がけるIT企業社長・路加(佐藤隆太)。