だがJR北海道は相次ぐ赤字により、業績が良いとは言えない状況だ。今年6月3日に発表された区間別収支によると、JR北海道は全21区間で営業赤字となっている。こうした数字を踏まえると、JR北海道が難色を示す可能性もあったように感じる。
「ところが、話し合いは非常にスムーズに進んだんです。むしろJR北海道様側の担当者さんも、我々と同じぐらいの熱量で開業に向けて取り組んでくださいました。JR北海道様としても、収益の見込める路線の確保は行いたかったのではないでしょうか。今回の新駅開業は三者ともにメリットのある事業だったと自負しております」(同)
地元を盛り上げたいという当別町の思いと、理想のまちづくりを掲げるロイズ、そして収益を確保したいJR北海道、全員がWin-Winの関係で駅を開業できたということか。官民連携のプロジェクトにおける、お手本のような成功例といえるかもしれない。
ただタイミングが合わなければ、ロイズタウン駅の開業は難しかったかもしれないという。
「2023年3月に札幌市の隣町・北広島市に野球場『ES CON FIELD HOKKAIDO』がオープン予定なんです。北海道日本ハムファイターズの新本拠地となる同球場には、2028年に直結型の駅『北海道ボールパーク駅』が設置される運びになっています。そのため、1、2年でもタイミングが合わなかったら、ロイズタウン駅は実現していなかったかもしれません」(同)
JR北海道が北海道ボールパーク駅の設置を計画したのが2019年12月11日、北広島市の請願が2020年7月6日。対して、当別町とロイズが請願したのは2020年1月17日である。
北海道ボールパーク駅の総工費は約80~90億円。予算や規模、予想利用客数がまるで異なる駅同士のため、もしロイズタウン駅の請願が遅れていたら、北海道ボールパーク駅の工事が優先されていた可能性もあるだろう。
では、現時点で懸念材料や課題はあるのだろうか。
「ロイズタウン駅は近くに商業施設がなく、ショッピングをするのであれば隣駅の太美駅まで行かなくてはいけません。ですから今後は民間資本を呼び込んでいきたいのですが、当別町は田園風景が広がる農業が主産業の町なので、急に方向転換するのも難しいです。息がしやすい町を守ることに加え、景観をそぐわないように企業を誘致していくことが課題だと考えています」(同)
最後に担当者は、ロイズタウン駅を通して、当別町の魅力を知ってほしいと話した。
「当別町としては、町の財政状況が苦しいなかで、このように官民連携の事業ができたことは、実に喜ばしいことでした。ただ、ロイズタウン駅に注目が集まっている今だからこそ、今後どう発展させていくかが重要だと感じています。札幌駅から電車で30分ほどの位置にある当駅を訪れて、当別町に遊びに来る方が増えることを願って、今後のまちづくりに尽力していく所存です」(同)
ロイズの工場があり、緑豊かな風景が広がる当別町は絶好の観光スポットだ。今後のさらなる発展に期待したい。
(取材・文=文月/A4studio)