「外資系の動画配信サイトが、日本的なアニメ放送のスタイルを理解していないというのは、まずないと思います。そうではなく、知っていてあえて選ばなかったのでしょう。アニメを買い付けて放送する際に日本的なスタイルを導入して配信するというのは、コスト面であまり旨味を感じなかったのではないでしょうか。動画配信サイトの目的は、契約数を伸ばすことで、重要なのは最初に作品を見て、入ってくれる・継続してくれるかどうかです。その目的から考えると、コンテンツの熱量を維持し、無料視聴でもユーザーを成長させていく日本式スタイルはあまり必要ないという判断を下しているのだと思います」(同)
一挙配信というスタイルがそもそも欧米のユーザーにとって慣れ親しんだものであることも、考慮する必要があるという。
「アメリカは国土が広いため、電波によるテレビの送受信文化があまり発達せず、代わりにケーブルテレビのスタイルが根付きましたが、ケーブルテレビは放送局の数がとにかく多いのです。そのため全国民が毎週決まった時間に同じ番組を観るという習慣があまり形作られませんでした。そういった背景もあり、続きもののストーリーが毎週展開していくアニメ作品はなかなか広まりづらく、『スポンジ・ボブ』のような基本的に1話完結で、どこから観ても楽しめるような作品が多くなっていった印象があります。
ですから、動画配信サイトがアニメ作品を一挙配信するというスタイルをとっても大きな反発が出なかったのでしょう。むしろ動画配信サイトが一挙配信を数多く行うようになったことで、休日などに話題作を一気に観るビンジウォッチングと呼ばれるスタイルが一般的になりましたし、一挙配信は欧米人と相性がいいのでしょう」(同)
だが、日本的なアニメ配信スタイルが欧米圏で受け入れられていないかというと、そうでもないそうだ。
「海外の熱心なアニメファンには、日本的な毎週1話放送のスタイルを望んでいる人も多い印象です。また、日本のアニメやドラマの配信を主軸に行なっているアメリカの動画配信サイト『Crunchyroll(クランチロール)』などは、日本の人気アニメをテレビ放送の数日後に毎週1話ずつ配信していくというスタイルを取っています。YouTubeでアニメ視聴のリアクション動画をあげている海外のアニメファンたちなどは、このCrunchyrollを多く利用して、毎週、次はどうなるんだ? と日本のアニメファンと同じようにコミュニティ内で盛り上がっていますね」(同)
では、テレビ文化に根ざしていたアニメの放送形式が今後、動画配信サイトの隆盛でどう変化していくのか、そしてファンコミュニティのあり方も変わってゆく可能性があるのか。
「一挙配信というスタイルは、話題によって動く浮動層をユーザーとして育てる効果を無視してますし、毎週追ってストーリーを完結させていくここ半世紀の日本のアニメ文化とは異なるものです。ですが、いまだ大半のアニメ制作が週次視聴派を前提として作られていることを考えると、一挙配信だからこそできる新しいアニメ表現を生む可能性はあるとは思います。ただ個人的には、米国にはなかなか育たなかった週次ストーリー視聴型アニメと、それを無料視聴する視聴者たちの反応によってファンベースを育てていく、という文化自体はなくならないでほしいですね」(同)
日本人が慣れ親しんできた毎週1話の放送を楽しむというスタイルの一体感は今後過去のものになり、アメリカ的なビンジウォッチングの習慣に日本人も徐々に慣れていかねばならないのだろうか。
(文=A4studio)