月26万人が来場…浅草横町、20~30代が殺到する理由 SNS&リアル集客戦略

 この下遠野氏の談話を確認するべく、筆者は土曜日の8月27日「浅草横町」で展開されるパフォーマンスを見に行った。この日のパフォーマーは「盆女」(ぼんじょ)という日本舞踊のユニット。17時30分に狐の仮面をかぶった振袖姿の4人が「浅草横町」が入っている東京楽天地浅草ビルの下を民謡に合わせ踊りながら淡々と進み、道行く人はそれを写メする光景が見られた。浅草の風物としてすでに定着している印象を受けた。

 18時から「浅草横町」のフロアで踊り、飲食店の各店内に入ってマイペースで淡々と踊る。そして中央に設けられたステージでも踊りを披露し、来場のお客を招いて盆踊りを楽しんでいた。

月26万人が来場…浅草横町、20~30代が殺到する理由 SNS&リアル集客戦略の画像3
フロアの中が混雑していても、飲食店の行列は途切れることがない

TikTokとYouTubeで熱心に発信

「浅草横町」を運営するのは株式会社Hi-STAND(本社/東京都品川区、代表/戸田博章)。同社代表の戸田氏はバーテンダーから転じてSWHDの前身に入社して、店舗運営からブランドマネージャーを歴任。2012年に個人事業主として独立、2014年に現在の会社を立ち上げ、SWHDのグループ会社24社で構成される「ファミリーのれん会」の一員として活躍している。

 戸田氏の前職の代表である下遠野氏との関係性を例えていえば、戸田氏は下遠野氏の“一番弟子”。下遠野氏からの信頼があついからこそ、SWHDの大きなプロジェクトを継承している。戸田氏が“ビルの4階にある横丁”の集客対策として考えたことは「TikTok、YouTubeでバズらせること」であった。戸田氏はこう語る。

「新しくできた施設がテレビで紹介されると40代50代の人がやってきます。しかし、MZ世代といわれる20代から30代半ばの世代はテレビではなくTikTokとYouTubeから情報を得ている。そこでここでバズると『この風景と同化したい』ということで、そこに行く動機が強烈に高まることになります」

月26万人が来場…浅草横町、20~30代が殺到する理由 SNS&リアル集客戦略の画像4
「浅草横町のアンバサダー募集」の告知。これがきっかけとなって「浅草横町」のにぎわいがつくられていった

 戸田氏は1981年1月生まれでいま41歳だが、ライフスタイルや考え方はMZ世代そのもの。戸田氏の会社では飲食店19店舗、180人の従業員を率いているが、この感覚を持ってMZ世代の従業員を束ねている。そこでこのたび「浅草横町」を運営することになって「ぜひ、やってみたい企画」に取り組んだ。

人を集める企画の絶好のテキスト

「それは『浅草横町のアンバサダー募集』。オープンが7月1日で、その1カ月前の6月1日から8月31日まで『#浅草横町』『#浅草』の投稿をしてもらい、『どれくらい浅草ラブなのか』をアピールしてもらう。最初400人くらいのインフルエンサーから100人に絞りバズらせる。最終的に5人に絞る。このように、ここと浅草をバズらせることによって“横丁”が4階にあっても集客できるのではないかと思っていました」

 この試みは思いのほか強烈な集客力をもたらしているようだ。それが月商計画に対して2倍以上のレベルで推移している状況に表れている。現在、食材のストックから人員配置に至るまで予想外のことが起きていることから、運営者としてはオペレーションを鍛える絶好の機会をもたらされた。

月26万人が来場…浅草横町、20~30代が殺到する理由 SNS&リアル集客戦略の画像5
「浅草横町」平面プランのイラスト。ロゴや装飾品のつくり込みが細かく充実している

「ここは観光地です。地元の人も週に一回は来てくださるかもしれないが、ほとんどが『流動的新規客』です。店の利用の仕方は、一杯飲んで定番のメニューを食べて、ほかの店を巡るというパターン。肌感覚で1.8店舗を回っているようです。ここでのホスピタリティを町場で営業しているものと同じレベルで維持していかなければならない。ここで培ったノウハウは、地方都市などで集客する企画を持っている人たちに役立たせることができるのではないかと考えています」

 戸田氏はこのように語り、不利な立地と想定される場面での新しい集客方法について手応えを得ている。

 このような「浅草横町」のにぎわいをつくったストーリーを聞き、この中で昼酒を楽しんでいるMZ世代を見ていてふと気づいたこと。いま、MZ世代に店の存在感が届いていないと、これから注目されるチャンスはないのでは。商売はSNSでの発信が基本となる、ということだ。

(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)