トラス首相はさらに国内のシェールガス採掘や北海の油・ガス田の再開発に乗り出すことを明らかにしているが、この方針は英国政府が目指してきた温室効果ガス削減に逆行する。環境破壊を懸念する住民の反対も危惧されている。
このように、トラス新首相は不退転の決意で「インフレ封じ込め」を断行する構えだが、外交面でも共産主義に不寛容だったサッチャー路線を継承することは確実だ。対ロ強硬派として存在感を高めたトラス首相だが、あまりにも好戦的な物言いに対する懸念の声が上がっている。トラス氏は中国に対しても強硬姿勢で臨むといわれており、中国の脅威に直面しつつある日本にとっては頼もしい限りだが、「過ぎたるは及ばざるごとし」。東アジアの地政学リスクが過度に高まるリスクも排除できない。
英国では10日、チャールズ新国王(73歳)の即位が正式に布告された。1953年に25歳で即位したエリザベス2世は、長年にわたり「英国の母」として人気を保ってきた。エリザベス2世は国民団結の象徴として機能してきたが、73歳の老齢男性がこれを継承できる見込みは低いといわれている。昨年実施された世論調査では「チャールズ皇太子が良い国王になる」と回答した国民は3分の1にすぎなかった。英国で王室廃止の機運が盛り上がり、英連邦諸国が反乱を起こす可能性も指摘され始めている(9月12日付ロイター)。
英国では「新国王即位と新首相就任によって我が国は不確実な未来に直面するだろう」との懸念が広がりつつある。トラス首相は2代目鉄の女として英国の未曾有の難局を乗り切っていくことができるのだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)