課題の解決策は、右でも左でもなく、自社のことを見つめ続けた、その先に見つかります。デザイン経営のやり方に正解はありませんが、強いて言えば「自社に合ったやり方を見つけること」ではないでしょうか。
では、自社に合ったデザイン経営の形とは何でしょうか? そのヒントになる事例をお伝えします。
デザイン経営の代表的な例は、代表取締役や社長が「元デザイナー」というケースです。私もかつてはデザイナーでしたが、お付き合いのある企業を見ていると、元デザイナーの社長には、分析力・調整力・忍耐力・突破力が備わっている方が多いように感じます。それは、デザイナー特有のスキルや経験値が備わっているからだと思います。
たとえば、デザイナーに新商品のPRポスター制作の依頼がきたとしましょう。クライアントから提供されるプレゼン資料はあくまで資料の一部であり、ひとつのヒントとして受け取ります。大事なのは、何度もクライアントにヒアリングをして、その企業や商品に対する理解を深めていくことです。場合によっては、社内見学をしたり、開発者や製造部門の方々に話を聞いたりすることもあります。
また、並行して、図書館や書店に通ってクライアントの業界の歴史や競合他社の状況について調べたり、デパートに行って今のトレンドを探ったり、美術館に行ってインスピレーションをもらおうとしたりと、多方面で情報収集を行います。
そうして得られた情報や知識とクライアントの希望をミックスして、やっとポスターのコンセプトやテーマカラー、コピーライティングの方向性などが決まるのです。
一方で、これらの工程は必ずしもスムーズに進むわけでありません。場合によっては、何日も徹夜が続いたり、何も思いつかずに途方に暮れていたけど、締め切り間際にいいアイデアが浮かび猛スピードで完成させる、というケースもあるでしょう。私も、何度も寿命が縮むような思いを経験しました。
普段は終わりが見えない地味な作業を繰り返し、時に絶体絶命の状況に陥ることもある。そういった経験を積んできたため、元デザイナーの社長は、自社の課題解決のために最良な方法を探り、それを実行に移す力があるのだと思います。
アップルの共同創業者の一人であるスティーブ・ジョブズが工業デザイナーだったことは有名ですが、そのアップルはデザイン経営に成功している企業の例として挙げられるでしょう。日本でも近年、「デザインと経営」というテーマは注目されています。広い意味でのデザイン経営に成功している例として、ソニーやトヨタ自動車などがイメージされますが、もちろん大企業だけでなく、中小企業でもデザイン経営を取り入れることは可能です。
自社の課題に正面から向き合い、その解決策を探し出し、迷いなく実行する。難しく感じるかもしれませんが、やるべきことはとてもシンプルです。ぜひ、今回の話をヒントに危機を乗り越えていってほしいと思います。