「カプセルトイの商品は、すべて受注生産なんです。玩具メーカーが新商品を発表し、我々が注文するのは発売の3カ月前。ほとんどの場合、メーカーはその注文分しか製造しないので、どれだけ売れ行きが良い商品でも、すぐに追加の補充ができません。このサイクルをマニアたちは知っているので、欲しい商品や人気商品が売り切れると来店しなくなるのです」(同)
こうして3店とも、オープンから3カ月で売り上げが半分にまで落ち込んでしまった。しかし、「この3カ月の売り上げを分析し、現在の『ガチャガチャの森』につながるヒントを見つけました」と松井氏。
「マニアは、人気商品の発売時には来てくれました。それ以外の平常時の客層を分析すると、普段ガチャガチャを回さない“大人女子”が売り上げを支えてくれていたことが判明。そこで、ショップのコンセプトをマニア向けから『普段ガチャガチャをしない人向け』に変えようと思ったのです」(同)
こうして、2017年にリブランドした「ガチャガチャの森」が誕生する。対象は「普段ガチャガチャをしないすべての人」としたが、とりわけ「大人女子」が一番のターゲットに設定された。同店には、そんな大人たちに楽しんでもらうための工夫が随所に施されている。
「内装はシンプルに。さらに、店頭には大人女子の興味を引きそうな商品のディスプレイを置いています。カプセルトイが好きな子どもとマニアに向けた商品は店の奥に置き、入り口に親子連ればかりが集まらない空間づくりを心がけました。店頭に子どもが多いと、大人は『子ども向けの店なのか』と思い、足が遠のいてしまいますからね。こうして『ガチャガチャ=子どもの遊び』というイメージを払拭し、大人でも入店しやすくしたのです」(同)
また、販売機の陳列の仕方にもこだわりがある。通常、カプセルトイの販売機は子どもの身長に合わせて2段で積まれている場合が多いが、同店ではメインターゲットである大人女子の視界を考慮し、3~4段で積み上げているのだ。
「子どもは2段、女性は3段、男性は4段が最も視界に入りやすいので、それに合わせて高く積み上げています。もちろん、高さを出す分、安全対策には注力していますし、消防検査にも合格しています」(同)
同店は「今までカプセルトイに親しんでこなかった人」をターゲットに、市場規模を拡大させている。「ガチャガチャの森」をオープンする前年の2016年とコロナ禍の現在の売り上げを比べると、なんと約6倍に成長しているという。
「設置店数は大幅に減っていますが、売り上げは今の方が好調です。現在のショップは新規層を獲得しやすく、さらにリピートしてもらえる業態だからだと思います」(同)
カプセルトイ売り場の既存イメージを覆す「スタッフ常駐」という点も、新規層獲得とリピート率増加の重要な一因だ。
「店舗に店員を常駐させ、『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』の声かけを徹底しています。この声かけがあるだけで『何かあったら店員が対応してくれるんだ』と、お客様に安心感を持っていただけるのです。何を取り扱う店でも、接客の質が低い店に『また行きたい』と思う人はいませんから、従業員の教育は時間とコストをかけて行っています」(同)
このビジネスモデルは、人件費がかからないというカプセルトイ商売の利点を無視しているようにも思える。だが、実際には店舗型の方が人材面のコストは改善しているそうだ。
「軒先にマシンを設置していた頃は、全従業員に1台ずつの営業車をつけて巡回させていたので、管理費、ガソリン代、高速代などがかかっていました。それに車だと、万が一の事故のリスクもあります。そう考えると、今の常駐型の方がコストが見える化され、先々の予算も考えやすくなりました」(同)