新築マンションの価格高騰が続いています。首都圏の新築マンション平均販売価格は年々上昇し、5年前の2017年には5908万円でしたが、2022年には6360万円まで上がっています。
しかもこの数字、価格が上昇したことで広さを我慢した人の分も込みの数字です。坪単価の上昇で比較すると5年間で27%も値上がりしているのです。この傾向はアベノミクスが始まった2012年末から今日まで、ずっと続いている傾向で、2012年末からの10年間で考えるとマンション価格は7割近く上がっているという数字もあるぐらいです。
こうなってくると若い世代にとっては「マイホームを買うべきかどうか」が真剣な悩みになってくるはずです。そこで今回は高騰したマンションを買うべきか、背景の経済事情を含めて考えてみることにしたいと思います。
私は1980年代のバブルを経験している世代なので、マンション価格の高騰というとあまりいい思い出を持っていません。バブル当時はどの不動産価格もびっくりするほどの高価格になってしまい、しかも年々、手に入る不動産は都心からどんどん離れ、最終的には通勤時間が1時間半から2時間圏内でないと買う物件がないというところまで住宅価格が上昇しました。
私の場合、それであきらめて「40歳までは都心に近い賃貸に住むことにしよう」と決めたのですが、結果的にはそれが幸運でした。みなさんご存知の通り、その後バブルが崩壊して不動産価格は大幅に下落したのですから。
今回のマンション価格の高騰には、その当時とよく似た点と、まったく違う点が混在しています。よく似た点は「極端な金融緩和が行われている」という点です。冒頭で申し上げたとおり、今回のマンション価格高騰はアベノミクスの金融異次元緩和と時期的にはぴったりと重なっています。金利がゼロ金利に近いことで住宅ローンを借りやすくなり、それでマンションの買い手が増え、マンション価格が上がる構図が起きています。これがバブル期と前提が似ている点です。
一方でバブルとは違う点がたくさんあるのが興味深いところです。まず違いとして、マンション価格が高騰しているだけで不動産バブルは起きていないという点が挙げられます。同じ首都圏で見ると、戸建て住宅の価格はこの10年間で実は1割ほどしか上がっていません。マンションが人気なのであって、不動産全般が人気なわけではないのです。
2つめに、実需が価格高騰を支えているという点です。一時期は湾岸部のタワーマンションを外国人が投資目的で買い漁っているという声も聞かれたのですが、実際に不動産会社の方にお話をうかがうと、買い手の大半はマイホームとしての実需買いが圧倒的に多いということで、別に投機マネーがマンション業界に流れ込んでいるわけではないようです。
その点で、もう少し詳しく実情を見ると、このマンション価格高騰のメカニズムが見えてきます。
まずひとつめに、マンションの買い手のなかに高齢者や中高年が一定数存在していることです。バブルの頃に新築マンションを買う人は比較的若い世代で初めてのマイホームを持つ人や、30~40代の買い替え需要のイメージが強かったものですが、現在は少子高齢化でそのような層の人口の絶対数は減っています。
その減少を補うかたちで、中高年以降の世代がこれから先の人生を考えて2階建ての戸建て住宅からバリアフリーのマンションに移り住みたいと考えるケースが増えてきているわけです。これは裏を返すと中古一戸建て住宅の売り手が増えていることになりますから、戸建て住宅の価格がこの10年間それほど上がっていないという事実とも合致します。