1億円支給も…中国・千人計画に日本の研究者が流出、研究できない日本の研究環境

中国・人民大会堂(「Wikipedia」より)
中国・人民大会堂(「Wikipedia」より

 6月21日付「PRESIDENT Online」記事で紹介された、中国が進めている「千人計画」の実態が衝撃的なものだとして話題となっている。千人計画とは、海外の優秀な研究者を好待遇で招致する中国の国家プロジェクト。同計画では、多額の研究費や生活費の工面はもちろんのこと、専用の研究室、マンションなどの貸与を約束されることも。同記事では、こうした待遇に魅力を感じて渡中する日本人研究者は少なくないと報じられていた。

 実際に2012~17年の間、同計画に参加し、2020年1月28日に虚偽の申告をしたとして米政府から起訴されたハーバード大学のチャールズ・リーバー教授は、月5万ドル(約680万円)の給料、月15万8000ドル(約2160万円)の生活費という莫大な額を受け取っていたそうだ。

 

 長年、中国の科学技術に関する研究・情報収集に取り組んできた産政総合研究機構・代表取締役の風間武彦氏いわく、「リーバー氏と似た待遇で招致された日本人研究者も少なくないと思われる」という。そこで今回は風間氏に、日本人研究者の中国流出問題や千人計画の実態、日中両国の研究環境について詳しく聞いた。

中国が研究者の確保に躍起になっている裏事情

 まず、千人計画の基本的な概要について風間氏はこう解説する。

「千人計画は、2008年12月から中国政府主導のもと、海外にいる中国人研究者、留学生を呼び戻す、もしくは海外の優秀な研究者を招致し、中国の研究に参加させるという人材招致計画です。海外研究者枠で対象となるのは中国以外で博士号を取得した65歳以下の人物で、条件は毎年中国で6カ月以上研究活動することです。

 条件を満たした海外の研究者が、北京で就業、創業する場合は“出入国居住報酬”という特別な報酬が適用されて、中国政府からひとりあたり100万元(約2000万円)が支給されます。これがハイテク分野などの基盤研究に携わる研究者になると、300万~500万元(約6000万~1億円)も支給されるといわれていますね。また私の聞いた話ですと、運転手つきの自動車や200平方メートルもあるマンションの一室を手配されたというケースもありました」(風間氏)

 だが、中国政府はなぜここまでして外国人研究者を獲得しようとするのか。

「簡単に申し上げますと、かつての中国の研究開発水準が先進国と比べて、著しく劣っていたという事情があったためです。経済成長前の中国では、外国人専門家を好待遇で迎えることが厳しく、海外へ留学生を送ってその国の技術を自国に取り入れるという政策を行ってきました。また海外の科学技術の吸収という目的のみならず、海外の研究環境、実験モデル、予算の使い方、マネジメントなど研究のノウハウをすべて吸収しようとしていたんです。

 そして、何より中国で根強かったのは、遅れた研究開発水準を先進国基準にしようとする“欧米に追い付け、追い越せ”の精神でした。2000年代に入って中国は飛躍的な経済成長を遂げ、資金繰りがしやすくなったので、千人計画のような好待遇で優秀な外国人研究者を募集するプロジェクトを推進できたのでしょう」(同)

 一方、充実している千人計画の待遇と比較すると、残念ながら日本の研究環境は見劣りするという。

「諸外国に比べると、日本で働く研究者は、研究時間が圧倒的に足りていません。理由は大きく2つありまして、ひとつは研究以外の雑務が多すぎること。学生への授業や指導だけでなくさまざまな事務作業に追われていたり、研究資金確保のために煩雑な科学研究費申請書を書かなければいけなかったりと、研究に専念できる余裕がありません。