運用損に加えて売却損まで負わされるのでは、節税効果どころの騒ぎではない。今、そうしたワンルームが池袋や大塚に限らず全国に多数滞留している。滞留、という意味は「売却もままならず放置プレー状態にある」ということだ。
不動産投資においては売却という出口が塞がれてしまうと、抱え込むしかなくなってしまう。十分な賃料が享受できるのであればまだしも、続々と建設されるワンルームマンションとの競合では、その商品力で分が悪いので家賃は下がる。外国人がワンルームに5人も6人も、などと報道されるのがこうしたサラリーマンたちが買い求めたワンルームである場合が多いのだ。
さらにやっかいなのは、彼らの節税対策には期限があるということだ。サラリーマンであるからには、いつまでも高給が保証されているわけではない。役職定年などを迎えると、給料は従来の6~7割、会社によっては半分以下に自動的に下げられてしまう。そうなると、せっかく不動産所得の赤字が作れても、控除する給与所得が少なくなってしまえば節税効果など雲散霧消してしまう。これでは何のために節税対策をしたのか目的をも失ってしまう。
現在こうした出口を失ったワンルームマンションが大量に滞留している。それにもかかわらず相変わらず大量のワンルームマンションが供給されている。なかにはローンが返済できなくなる、管理費、修繕維持積立金の滞納、未納の事例が頻発しているマンションも多くなっている。
では新しいワンルームマンションなら大丈夫かといえばそうではない。最近、都内で続々竣工している賃貸ワンルームマンションの多くがテナント付けで苦戦が目立つようになっている。若い人が集まらないのだ。都内に転入する人口の激減と若い年代の人口そのものが減少しているのがその背景だ。また最近竣工するものは土地代が高いのに加え、建築費が高騰している煽りを受けて、賃料水準を引き上げないと投資商品として魅力度が下がってしまう。そのため強気の賃料設定に頼るケースが増えている。テナントがこの動きについてきてくれればよいが、彼らにだって財布の限界がある。募集をしてもテナントが集まらないという悪循環が都内のいたるところで見受けられる。
実は都心部におけるマンションのスラム化について、私は意外と遠くない未来、この取り残されたワンルームマンションから始まる気がしている。この所有者の間で相続が頻発する頃には、相続登記をしない、管理組合には届け出ない、管理費は払わない、大規模修繕などに応じない、いつのまにか外国人に売られていたなど、さまざまな事象が勃発することだろう。
節税だけが目的の不動産投資の未来は暗いのだ。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)