三井不動産がデベロッパーを務める「東京ミッドタウン八重洲」は、2023年3月に東京都中央区八重洲でグランドオープン予定となっている注目のオフィス複合施設である。45階建ての超高層ビルとなっており、JRや地下鉄、バスなど多くのモビリティにコネクトできる立地のため、日本のビジネス中心街の八重洲の新たな拠点として期待されている。
だが、肝心の企業の誘致状況は芳しくない模様なのだ。5月25日付東洋経済オンライン記事、7月11日付日本経済新聞記事によると、推定延べ床面積13万平方メートルもある当ビルのオフィスフロアは、まだ半分程度しか埋まっていないという。開業は来春とまだ先だが、これだけの一等地にもかかわらず半分も空室なのは驚きである。
とはいえ、どうやらオフィスビルに企業が集まらないのは、この東京ミッドタウン八重洲や八重洲エリアだけの問題ではない。相次ぐ再開発の影響により23年の東京都心部では、オフィス供給量が128万平方メートルを超え、都心部全体でオフィス供給過多になるという“23年問題”が叫ばれているのだ。
こうした都心部の状況を受けて、ネットでは「テレワークの普及でオフィスが必要じゃなくなった」「レンタルオフィスも増えている」とオフィスを構える必要性がないことについて言及する声が少なくない。また、「八重洲などのビジネス街では賃料が高いのにビルを増やしすぎ」「都内の高層ビルはもう飽和状態、採算は取れない」と近年のビル建設に疑問を投げかける声もある。
テレワークやレンタルオフィスの需要が高まるなか、新規でビルを建設する必要はなくなっていくのかもしれない。そこで今回は賃貸、土地活用、不動産投資の分野に詳しい株式会社グロープロフィット代表取締役の竹内英二氏に、都心部の開発事情について話を聞いた。
竹内氏はまず、東京ミッドタウン八重洲を大企業向けのビルだと定義づけ、同ビルの誘致不調の原因は八重洲独自の問題も関係していると分析する。
「もともと八重洲エリアは小さなビルの多い地域でした。東京駅を境に西側に位置する丸の内は、伝統的に大企業向けの高層ビルが多かったのですが、東側の八重洲はどちらかといえば中小企業が入る小規模なビルが立ち並んでいたんです。ただ10年ほど前から中央区から再開発を促される傾向があり、八重洲でも大型ビルが建設されるようになりました。
したがって、ここ10年で一気に中小企業の街から大企業の街へと変化した印象がありますね。そこで、近年のこうした八重洲の状況を踏まえて、東京ミッドタウン八重洲は、大企業をメインターゲット層とする大型ビルとして建設されたのでしょう。
ですが、大企業の多くは、コロナ禍でテレワークを導入しているため、ビル側と企業側とで需給のミスマッチが起こっています。多くの方の予想どおり新型コロナウイルスの影響が、誘致が上手くいってない最も大きな原因ですね。もし八重洲が中小企業の街として今も残り続け、東京ミッドタウン八重洲も中小企業をターゲットに建設していたビルであったなら、空室は免れたかもしれません」(竹内氏)
新型コロナウイルスの影響もあり、このままだと全フロアが埋まるのは厳しいということか。
「グランドオープンは半年以上先の来年3月なので、まだ三井不動産は焦って空室を埋めようとはしないでしょう。また、長期のフリーレントで最初の3~6カ月の間は無料といった取り組みはするかもしれませんが、賃貸契約期間は長いため、賃料を下げるという施策は打たないだろうと思います。賃料単価を下げてしまうと単純に収益も減りますし、その後賃料を上げることが難しくなるので、三井不動産はワンフロアを広い状態で維持して、大企業の入居を待つ可能性が高いです」(同)