円安がさらに進めば、コスト高によって海外留学プランを見直す学生も出てくるだろう。オンライン授業の普及によって、「海外の大学で勉強したい」という本人の願いに対しても、「日本の大学でも受講できるはず」という親の声も高まると考えられるからだ。
コロナ禍でここ1、2年は中断されたが、米ハーバード大学や英ケンブリッジ大学といった海外の有名大学への進学を志すケースが2023年以降は劇的に増えるという予想も、円安の影響や長引くコロナ禍で微妙だ。海外留学に限らず、日本は大学生の経済的負担が大きいという背景も看過できない。
アメリカ、イギリス、オーストラリアなどは授業料が高いが、奨学金などが充実している。他の欧州諸国は、高等教育の学費負担そのものが低い。その点、日本は高等教育にかかる費用の5割以上を家計が負担しており、公的な負担は3割にすぎない。この割合は、OECD加盟国平均の半分以下といわれている。
ただ、アメリカの州立大も実質民営化が進み、学費が上がる傾向にある。特に今年に入ってインフレ懸念が高まっており、それに伴って学費も急騰している。アメリカの私立大では、年間授業料800万円弱(1ドル137円換算)に達するところもある。日本の国立大の平均は首都圏の一部有力大を除き約53万5000円、私立大でも医学部を除き80万~150万円が相場である。
今まではアメリカやイギリスなど英語圏の大学への留学志望者が多かったが、ヨーロッパには留学生も含めて大学の授業料がほぼゼロの国もある。ドイツやノルウェー、アイスランド、フィンランドなどだ。また、フランス、イタリア、スペインなども、留学生も含めて学費はかなり安い。英語圏にこだわらなければ、本人の問題意識に従って選べる留学先の候補は広がるはずだ。ただ、その場合でも、円安の影響ゼロというケースは少なそうだ。
2020年秋、アリゾナ州立大学/サンダーバードグローバル経営大学院―広島大学グローバル校が広島大学東広島キャンパス内に設置された。国立大として初めてのケースである。
アリゾナ州立大学は「THEインパクトランキング2022」で世界2位(米国1位)で、イノベーションなどの分野では世界トップクラスであると評価が高い。4年間を広島大キャンパスで学ぶ「4+0」と、後半はアメリカで学ぶ「2+2」のコースがある。授業料は年間約340万円と相当な額だが、アメリカでは珍しくない。
このように、留学しないでも日本の大学キャンパスで外国の実績ある大学の学位を取れるようになれば、選択肢は広がる。コロナ禍においても海外留学に夢を持つ学生は増えていると思われるが、コロナ終息が見えない中で円安が直撃して深刻な状況が続いている。日本のグローバル化の学びの多様化を考える機会とすべきであろう。