その後、多くの競合他社が唐揚げに参入し、価格以外に強みを持てない商品は当然のように市場から姿を消していくこととなる。結果的に中食市場で、から揚げの天才は苦戦が続いている。同社の持ち帰り弁当は、トッピングのマヨネーズが温度により溶け出し、持ち味を活かしきれなかったことも理由としてあげられる。ワタミは居酒屋としてのから揚げブランドはかろうじて維持しているものの、持ち帰り専門店の閉店が続いてることは企業として戦略的には痛手ではないだろうか。
鶏肉という商材は、素材により差別化を表現しやすい商品ともいえる。例えばケンタッキー・フライド・チキンのオリジナルチキンは単品250円と高価格帯であるが、多くの消費者に支持されている。国産の鶏肉や衣の味わいにファンは惹かれている。また、すかいらーくグループが展開する「から好し」は、からあげグランプリで5年連続で金賞を受賞。一定以上の付加価値があることを業界団体だけでなく多くのファンが認めている。
最近は円安のため、さまざまな商品の原価が高騰している。農林水産省が公表する品目別貿易実績(2020年)によると鶏肉輸入は1位がブラジル、2位がタイとなっており、この2国だけで全体の97.3%を占める。鶏肉の食料自給率は64%であり、今まで外国産鶏肉は比較的安価で調達されていたが、原価高騰により今後は見通せない状況だ。例えば、安価な商品の代表格でありスーパーでよく見かける焼き鳥は、ほとんどはタイや中国などで加工された鶏肉調整品である。
今やレッドオーシャンと化したから揚げ市場で、生き残りの余地はあるのだろうか。各店が模索しているのはサイズアップと衣の差別化。コンビニ各社もサイズアップや味付けの改良などに取り組んでいるが、その2点で注目すべきから揚げ専門店を発見した。東急東横線都立大学駅ガード下にある、から揚げテイクアウト専門店「からり商店」。サクサクでジューシーなから揚げと大ぶりな衣と肉の大きさに圧倒される。濃い目の醬油味とうま塩味の2つの味付けが選択肢だが、価格は高めの設定。ホームページもなく口コミと「友達」数が4万7000を超えるLINEが告知の手段。
レッドオーシャンとはいえ、小規模な店舗でも差別化を図ることができる、から揚げ。各社の創意工夫から目が離せない商材のひとつといえる。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)