ニチレイフーズが昨年実施した「全国から揚げ調査」によると、から揚げは「好きなおかず」の1位を獲得し、コロナ禍でも好調な売れ行きを維持しているという。全 29 品のおかずから好きなものを選択(複数選択可)する方式で、回答者全体の70.8%が「から揚げ」を選択。2位には「焼肉」(69.4%)、3位には「餃子」(69.1%)がランクインしている。
1カ月以内のから揚げのルート別喫食率では、「惣菜」が 47.6%(昨年比1.5ポイント増)と最も多く、次いで
「手作り」(44.2%/1.9ポイント減)
「冷凍食品」(29.1%/0.1ポイント減)
「コンビニ」(24.4%/0.5ポイント増)」
「鶏のから揚げ専門店」(19.9%/1.5ポイント増)
「外食」(19.0%/0.9ポイント減)
となった。 コロナ禍が長引くなか、自粛疲れの影響か「手作り」比率は下がった一方で、「総菜」や「コンビニ」の消費量が堅調に推移し、年間消費量を底支えした。
から揚げなどの「揚げ物系」は調理や片付けの手間がかかるため、店内飲食や持ち帰り(中食)に向いている商材のひとつだ。から揚げは揚げたてだけでなく、冷めても比較的美味しく味わうことのできる商品。昨今の冷凍技術の進化もあって、スーパー各社も冷凍食品で品ぞろえを増やし、コンビニ各社も毎年新商品を発表するなど力を入れ、レジ横の販売スペースを不動のものとしている。
ファミレスや居酒屋チェーンもコロナ禍において集客の柱とするべく、から揚げ商戦に続々と名乗りを上げているが、ワタミもそんな外食チェーンの一社だ。同社の2022年3月期決算は減収増益で、「国内外食事業」の既存店売上高は前年比85.5%、同客数は86.5%、新規出店は49店舗、撤退は75店舗であった。「宅食事業」の調理済み商品の累計お届け数は前期比110.9%、宅食工場の統合集約による固定費の削減が寄与しセグメント利益は167.9%と大幅に伸びた。収益改善のため居酒屋から「焼肉の和民」に業態転換を急ぐ一方で、フランチャイズ(FC)モデルによる「から揚げの天才」の出店強化を行った。
5月上旬、大田区糀谷界隈を久しぶりに訪問したが、駅前商店街にあった「から揚げの天才」が閉店していたのを見てとてもびっくりした。なぜなら隣の大鳥居駅がワタミの本社所在地だからである。近隣には試験的に展開している店舗も存在し、さながらワタミの実験都市という印象を受ける。から揚げの天才だけでなく焼肉の和民も大鳥居駅至近にあり、筆者も訪問したことがある。ちなみに、から揚げの天才の跡地には6月16日、「なるとキッチン糀谷店」がオープンした。
コロナ禍に伴う各種宣言は3月末に解除され、飲食店は日常を取り戻そうと必死になっている。ワタミはどこへ向かい、どんな価値を創ろうとしているのだろうか。
ワタミの営業戦略を見ると祖業である居酒屋業態は壊滅状態で、業績を支えているのは宅食事業だ。ワタミが得意とする営業戦略は、いうまでもなくスケールメリットを活用した価格戦略につきる。価格を優先しているだけに、新奇性に目ざとい客やFC加盟店を取り込み急拡大を図る。自前で店舗設計するよりもFCを増やすほうが投資にかかる本社のコストは軽減され、定期的にのれん代を回収することが可能となる。
同社がFCを募集するための動画を見たことがあるが、初期投資が少なく早期回収が見込めるといった謳い文句が並んでいて、かつ著名人が推奨しており、FC加盟はかなり魅力的だと感じさせる演出が施されている。
から揚げの天才は価格優位性に優れているものの、味わい的な評価は決して高くはない。使用している鶏肉もどこか安っぽさを隠しきれない。コロナに伴いテイクアウト需要という神風が吹いたことと、手軽な価格で唐揚げ丼が食べられること。そして有名プロデューサーのテリー伊藤こだわりの玉子焼きを前面に打ち出した戦略も効き、一時期は確かにヒットしたが、最近では閉店ラッシュが報じられている。