ダイキンは「日本の宝」…海外勢が模倣困難な高い技術力で高収益を持続

 また、半導体の分野でもダイキンはより多くのビジネスチャンスを自ら生み出そうと、取り組みを強化している。そのひとつとして半導体のエッチング(化学品などを用いてICチップの回路を形成するプロセス)に用いられるフッ化水素酸(フッ酸)の新しい製造技術が開発された。

 これまで、ダイキンは中国から蛍石を調達してフッ酸を生産してきた。それは、世界の主要な半導体メーカーからの需要を取り込み化学事業の成長を支えた要素の一つだ。しかし、米中の対立先鋭化、さらにはコロナ禍やウクライナ危機の発生によって地政学リスクが高まるのみならず、世界経済全体で供給制約が深刻化している。資材調達面での対中依存度の引き下げは、事業運営の安定と持続性の向上に欠かせない。そのためにダイキンはヒ素が多く含まれるメキシコ産の蛍石を用いてフッ酸を製造する技術を確立した。

 2019年7月に日本が韓国向けフッ化水素をはじめとする特定3品目の輸出手続きを厳格化した。その直後、サムスン電子などの韓国主要企業トップは日本企業を訪問し、高純度の半導体部材などの在庫確保に奔走した。それは、ダイキンなどの素材創出力が模倣困難であることを世界に示したといえる。新しい素材の生産は有毒物質の除去などコスト負担を伴うが、対中依存度の引き下げは主要先進国にとって喫緊の課題だ。代替資材を用いて高純度の半導体部材を生み出すダイキンとの関係強化を目指す半導体メーカーなどはこれまで以上に増えるだろう。

先端分野でのビジネスチャンス拡大

 今後、世界経済の先端分野においてダイキンのビジネスチャンスは加速度的に増加し、成長期待は高まるだろう。具体的に成長が期待される分野は増えている。例えば、地球温暖化や異常気象の深刻化によって、世界全体で冷暖房の需要が増える。現時点でダイキンは世界トップの空調機器メーカーとして競争力を発揮しており、さらなる成長が期待される。それに加えて、世界的な物流の効率化、サプライチェーンの再編などを背景に、低温コンテナ輸送の分野でも収益機会は増えるだろう。

 また、健康に関する分野でもダイキンのビジネスチャンスが増えている。新型コロナウイルスの出現によって、私たちは感染症のリスクから身を守り、健康を維持することの重要性を強く認識させられた。微細なウイルスなどを吸着して空気清浄を行う需要も増加基調で推移するだろう。半導体の分野では台湾積体電路製造(TSMC)などが微細化技術の向上を急ぐ。年内に台湾でTSMCは回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)の半導体工場を建設する予定だ。微細化技術の向上には、超高純度のフッ化水素などの製造技術の向上が欠かせない。

 自動車分野では、電動化をはじめとするCASEの取り組みが加速する。車載用の半導体やバッテリー、eアクスルなどの駆動ユニットの生産が増える。そうした変化も冷媒をはじめ新しい素材需要の増加につながる。

 新しい素材の創造なくして、新しいモノやサービスの供給は実現困難だ。これまでにはない機能を実現する素材であれば、価格が高くても需要を獲得することができる。言い換えれば、新しい素材を連続的に生み出すことによって、ダイキンは脱炭素を背景とする自動車の電動化や再エネ利用の増加、デジタル化の加速による超高純度素材の需要拡大などをより効率的に取り込むことができるだろう。

 それに加えて、同社は内外の企業との関係を強化し、資材調達力の強化やコストカットを徹底しなければならない。世界的な物価高騰と経済成長率の低下懸念が同時に高まるなど、先行きは楽観できない。その中で同社がこれまで以上に事業運営体制を引き締め、加速度的に新しい化学品や空調機器などを創造する展開を期待する。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)