「ぶっちゃけ、0円でずっと使われても困っちゃう」。楽天グループの決算説明会で、三木谷浩史会長兼社長が楽天モバイルの0円プラン廃止を発表するにあたって、こう言い放った。思わず本音が出たようだ。
楽天グループは国内携帯電話サービスの目玉だった「0円」で利用できる料金プランを7月から廃止する。月間1ギガバイト(GB)までは0円で利用できるプランを廃止し、最低料金が980円(税抜き)のプランを導入する。20GB超は容量無制限で2980円という設定は据え置いた。
「月額0円」は2021年4月に導入した。菅義偉前政権の携帯料金の引き下げ要請を受け、携帯大手3社が20GBで月額3000円未満(税抜き)の低価格プランを導入。すでに2980円でサービスを提供していた新規参入組の楽天は、料金の見直しを迫られた。そこで最低料金を0円とし、データ量に応じて料金が段階的に上がるプランで勝負に出た。テレビCMでも利用客に「0円から使える」と大々的にアピールした。
「980円は妥当。他社と比べてもアグレッシブだ」三木谷会長は相変わらず強気の姿勢を崩さない。だが、SNS上では「だまされた」「聞いていない」「解約する」という声が飛び交った。ユーザーのなかには楽天モバイルを解約し、0円で回線を維持できるKDDIのオンライン専用ブランド「povo(ポヴオ)」などに契約を切り替える人が出ている。
KDDIは格安ブランド「povo」で提供している月額基本料金0円のプランを今後も継続する。povoは菅政権による携帯電話料金の値下げ要請に応えるかたちで昨年3月から提供、9月に0円プランを始めた。楽天モバイルを除くと携帯電話大手で0円プランの例はなく、120万人が加入している。楽天モバイルが「月額0円」の廃止を発表後、povoへの申し込みが通常時の2.5倍に増えたという。
インターネットサイト運営会社エイチーム(東証プライム市場上場)の子会社が運営する通信費見直しサイト「ソルディ」は、楽天モバイルユーザー男女441名を対象に「楽天モバイルの0円廃止に関する意識調査」を実施した。それによると、0円ユーザーの9割以上が楽天モバイルの0円廃止を「嫌だ」と回答。0円ユーザーの約7割、0円ユーザー以外の約4割が乗り換えを検討していた。乗り換え先としてはpovoが4割以上と最も多かった。
21年12月末時点の携帯電話各社の累計契約数は、NTTドコモが8385万件、KDDI(au)は6143万件、ソフトバンク4737万件、楽天モバイルは450万件だった。楽天モバイルは「月額0円」を目玉に、契約数は580万件を突破するまでになったが、「0円廃止で失速するのは避けられないだろう」(通信業界担当のアナリスト)。
ユーザー数も増え、ようやく大手3社を追い上げる体制が整ってきたのに、楽天モバイルはなぜ値上げに踏み切ったのか。「このまま突き進むと、楽天グループの屋台骨が揺らぐことになりかねないからだ」(前出のアナリスト)。
楽天グループの22年1~3月期の連結決算(国際会計基準)は、最終損益が914億円の赤字(前年同期は367億円の赤字)だった。同期間の最終赤字は3年連続だ。携帯電話事業で基地局の建設費用が膨らみ、同事業の営業損益は1350億円の赤字(同972億円の赤字)と四半期で最大最悪の損失となった。
携帯事業は23年12月中の黒字化を目指しているが、これが達成できるかどうかが当面の焦点だ。三木谷会長は決算説明会で「(KDDIから回線を借りる)ローミングの縮小などで費用が減り、携帯事業は1~3月期が赤字の底になる」との見方を示した。