現在でも徐々に新卒採用者を減らし、代わりに中途採用者を増やして即戦力につながるジョブ型雇用を取り入れている企業も増えている。就活で人気のある三井住友銀行やみずほ銀行のようなメガバンクも、上記の方針である。
しかし、これらの企業が明確にジョブ型雇用社会を目指しているというより、人的コストを考えて、必要なときに目的に合った必要な人材を採用した方が明らかに「コスパ」がよい、という判断なのであろう。だから、中途採用計画はあっても、新卒対象の一括定期採用をやめる大企業はほとんどないのだ。一方で、即戦力の期待度が高い中途採用者が増え、その分、新卒定期採用人数は減らされる。この現実が、就活生にとっては厳しさを増す主因となることは間違いない。
そうした状況での大学選びの基準は、学力偏差値よりも、将来につながる専門知識や資格、能力・スキルなどを身につけることができるかどうか、ということになる。どの大学を出たかより、その大学で何を学んだかという学習歴が、より重視されるのだ。
雇用問題に詳しい専門家は、上記の点を踏まえて「たとえば地方の公立大学である国際教養大や会津大などは、しっかり学んできた学生が多い」と評価する。東京都立大学や横浜市立大学など比較的知名度の高い公立大も含めて、合格者数の多い高校は、ほとんど地元が占める。ところが、国際教養大学の合格者数3名以上の4校の所在地は、宮城、千葉、愛知、徳島である。地元・秋田の高校はなく、いかに全国から受験生を集めているかがわかる。コンピュータ理工学部で外国人教員が目立つ会津大学も、学生寮が充実している。
グローバリズムや地域におけるITの学びに期待している受験生にとって、選択肢になるだろう。
どの大学でも有力な国家資格の取得を目指すなら、近くの専門学校とのダブルスクールでも学べばよいと考える傾向がある。しかし、大学で合格レベルの知識をマスターできれば、それに越したことはない。ただ、旧帝大系や有名私大でも、なかなかそのような期待に添えないことが多い現実もある。
たとえば、法曹を目指す司法試験は合格者数の多い有名大学ばかりに目が行きがちであるが、別の視点も重要だ。一例として、愛知大学の法科大学院は注目に値する。最近の合格者数は以前より減って2021年は2名であるが、合格率は66.7%と全国1位(2023年版『大学ランキング』朝日新聞出版より)である。法科大学院なので他大学の学生も入学しているが、地元で法曹を目指す私大の受験生にとって、愛知大は進学を検討すべき大学の一つになり得るだろう。
私自身も過去に取材した経験があるが、講義や授業も充実していると率直に感じる。ちなみに、愛知大は国税専門官も堂々の全国3位だ。トップの専修大学とともに、「マルサ」を希望するならお勧めだ。警察官志望なら、「警察就職率13年連続日本一」の日本文化大学も候補になるであろう。同校は、実に卒業生の約半分が警察官になるという。
ただ、資格の種類や具体的な職業でなく、このような業界で働きたいというレベルの進路プランを描いて受験する高校生も少なくないだろう。「旧帝大系や早慶ならどこでも強い」と思いがちであるが、一般的には有名でない他の大学にも、意外とその業種に強いところも少なくない。
大学通信調べの有名企業400社の業種別実就職率(就職者数/大学院進学者を除く卒業者)によると、就職者の実数ではなく就職率では、食品業界トップは東京海洋大学、鉄鋼・金属は長岡技術科学大学、金融は国際基督教大学、生損保は日本女子大学、マスコミとサービスは一橋大学である。また、前述の国際教養大は商社で第3位、運輸で第4位につけており、同校が就職に強いことを裏付けている。ちなみに、会津大もサービスで第2位に入っている。
このように、大学受験時に希望の業種や職種がある程度絞れていれば、学力偏差値に頼らず、効率の良い大学選びをすることができるだろう。かつては早稲田大学ならどの学部でもよい、という受験生が多くいたが、そのような動機での受験は、これからは将来設計の上でロスが多い受験スタイルになるだろう。早慶はもちろん、MARCHや関関同立でも学部学科の多様化が進んでいる。どの学部学科を選ぶかは、大学選び以上に有益な情報を収集して受験準備を進めるべきであろう。
(文=木村誠/大学教育ジャーナリスト)
●木村誠(きむら・まこと)
早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『「地方国立大学」の時代?2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)。他に『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。