加入者急減のネットフリックス、広告モデルへ転換なら巨額利益と破壊的革新を生む

 ここでネットフリックスがアマゾンのように単純にコンテンツの合間に広告を挟むだけであれば大した衝撃はないのですが、もしインターネット広告のように広告を個別配信したとしたら? ここが、実は未来の動画配信事業に対する一番の衝撃になります。

 テレビ広告とインターネット広告の最大の違いは、受け手によって届く広告が違うという点です。インターネット広告の場合は主に検索履歴や閲覧履歴をもとに、不動産を探している人には不動産の広告が、自動車を検索した人には自動車の広告が、お墓を調べた人にはしつこくお墓の広告が届きます。

 これは広告主にとってテレビのような一律の広告配信よりも効果が高いのです。だからインターネット広告市場はテレビの1.5倍にまで成長し、グーグルやメタはテレビ会社よりもはるかに巨大な広告メディアへと成長した。そのことを考えれば、もしネットフリックスが個別の広告配信を動画配信事業で始めたら、これはものすごく大きい業界インパクトを与えることになるのです。

 先ほどの村田戦にしても20歳前後の視聴者が見ているときには「バイト探しサムライ」の広告でいいと思いますが、それ以外の世代の視聴者には、それぞれの関心に合わせた動画広告を配信するとしたら。それもグーグルの広告と同じでオークション方式で広告価格を競わせて配信すれば、広告収入は動画配信事業モデルの収入をあっという間に抜き去るでしょう。

 はたしてネットフリックスは今回の転換点でビジネスモデルをそこまで転換することに踏み切るのかどうか、今、株式市場が一番注目すべきはその点ではないでしょうか。

(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

●鈴木貴博(すずき・たかひろ)

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『ぼくらの戦略思考研究部』(朝日新聞出版)、『戦略思考トレーニング 経済クイズ王』(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。