加入者急減のネットフリックス、広告モデルへ転換なら巨額利益と破壊的革新を生む

 そしてこれまでは無尽蔵に巨額の予算をつぎ込んで制作してきた新作映画やドラマも、予算規模を見直して適正化していきます。企業としては低成長で安定収益をもたらせるようにビジネスモデルを変えていくわけですが、それは言い換えれば成長神話の終焉を意味します。

広告モデルへの転換

 では、ネットフリックスはその転換期を迎えたのでしょうか。冒頭の株価急落を見るとその可能性も高いのですが、この株価急落の過程でネットフリックスのヘイスティングスCEOが興味深い発言をしています。ひょっとするとネットフリックスは根本的な戦略転換で、ここからさらに成長をするかもしれないことを想起させる発言でした。それは広告モデルへの転換です。

 ネットフリックスは長年の間、株主からは広告ビジネスの可能性をアドバイスされても、それを否定してきました。ネットフリックスはもともとDVDレンタルから事業を始めた会社で、企業文化としては「コマーシャルなしに映画などのコンテンツを楽しむ」という視聴方法にこだわってきた会社です。地上波のように途中で頻繁にCMが入るのが煩わしいという人たちに、月会費を払ってもらってゆっくりとコンテンツを楽しんでもらうことを会社の提供価値だと考えてきた企業なのです。

 そのネットフリックスのCEOが「今後数年以内に広告付きの低価格プランを導入する」と言い出した。実はこのことはネットフリックスの大きな方針転換だけではない、業界に破壊的イノベーションを引き起こす可能性を感じさせます。

 ちょうど最近、動画配信会社の新しい可能性を感じさせる別の事件がありました。世界が注目する、そして日本でこれまで開催された最高のマッチメイクといわれたボクシングの世界ミドル級王者統一戦「ゴロフキン×村田諒太」戦がアマゾンのプライムビデオで独占配信されたのです。

 アマゾンのプライムビデオは日本ではネットフリックスを上回る最大の会員数を誇る動画配信サービスです。ただ、その会員数はアマゾンの無料配達サービスを受ける目的でプライム会員になっている人たちの数なので、本当の意味での動画配信視聴者数はネットフリックスよりも少ないのではないかともいわれています。

 とはいえアマゾンも『バチェラー・ジャパン』や『ザ・マスクド・シンガー』のような独自の人気コンテンツを巨額予算で制作し、地上波に代わる新しいテレビのプラットフォームに名乗りを上げている企業です。それが村田戦ともうひとつ、これも世界が注目する今年6月のボクシングバンタム級の「井上尚弥×ドネア」戦という超強力コンテンツを独占獲得したのです。

 ボクシングファンのなかには今回のきっかけで初めてアマゾンプライム会員になった人も多いのではないでしょうか。私はもともとアマゾンプライム会員なので、村田戦はいつものようにテレビの前に座ってチャンネル設定をアマゾンに切り替えて視聴しました。そこまではネットフリックスを見るときと同じです。

 ひとつ大きな違いがあるのはこの村田戦、マイナビがスポンサーになっていて、試合中継の途中途中でマイナビの「バイト探しサムライ」のコマーシャルが入るのです。

未来の動画配信事業に対する一番の衝撃

 これも当たり前の事実ですが、動画コンテンツ配信の市場規模と比較すると広告市場の規模はけた違いに大きいのです。そしてグーグルやメタ(旧フェイスブック)といった巨大IT企業は広告事業で巨額な利益を稼いでいます。

 日本でいえば、WOWOWやスカパーの有料衛星放送事業の売上高はどちらも400億円台です。ネットフリックスは日本での売上を公表していませんが有料会員数から推測すれば700~900億円程度だと考えられます。それに対してテレビの広告費規模は業界全体で1.8兆円と有料コンテンツ市場を大きく上回ります。そしてインターネット広告市場は2.7兆円とテレビの1.5倍規模にまで成長しています。