そこで、この話は「IT企業がDX後に注目すべきはメタバース」というストーリーにつながるのです。メタバースというのは、現実世界とは別の生活を送ることができる仮想空間のことです。自分とは違う人格やキャラとして、この世界とはまるで違う仮想世界で暮らす世界。そこで友人がたくさんでき、おそらく敵もたくさんいて、現実世界よりもずっとエキサイティングな日々を送ることができる仮想空間のことです。
メタバースは2000年頃から話題となり、セカンドライフをはじめとするさまざまな企業がメタバース事業に投資をしてきたのですが、これまではハードウェアの性能が追いつかずにそれほど盛り上がることはありませんでした。この流れが変わってきたのが2010年代の中盤で、特にGPU性能の進化とVR用のヘッドマウントディスプレイの進化は画期的な転換点でした。
フェイスブックは14年にヘッドマウントディスプレイ分野で最も注目されたベンチャー企業のオキュラスVRを買収し、メタバース事業への足掛かりを手に入れました。安価で没入感に優れたヘッドマウントディスプレイの登場は、メタバース時代の本格到来を予感させました。そしてフェイスブックは21年8月にホライゾン・ワークルームズというビジネス版メタバースのβ版を公開します。さらには社名をメタ・プラットフォームズへと改名することでメタバースプラットフォーム事業への進出をアピールします。
この一連のフェイスブック(メタ)の戦略に対抗して、強烈な一撃を与えたのが、先ほどお話ししたマイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザード社の買収です。
マイクロソフトが今回の買収で手に入れたものは3つあります。
1.? 「コール オブ デューティ」をはじめとするアクティビジョン・ブリザードの人気ゲームタイトル
2. 月間4億人といわれる同社のオンラインゲームユーザー
3. エンジニアを中心とした約1万人のオンラインゲーム開発人材
マイクロソフトは21年11月に「Mesh for Teams」というメタバースツールを発表しています。これはZoomに対抗するマイクロソフトのビデオ会議ツールTeamsをメタバース対応させたものです。
ウェブ上にはコンサルティング業界最大手のアクセンチュアがMesh for Teamsを用いて研修を行う様子が動画で公開されています。研修の参加者が自分のアバターで仮想空間の研修ルームに集まり、そこで講義を聞いたり、グループでディスカッションをしたりするのですが、それが仮想空間とは思えない現実感とともに実現できています。
私もコンサルティング業界に長くいるのでわかるのですが、グローバルコンサルティングファームにおいては、社員の研修投資に非常に多額の予算がかけられます。ただ、わざわざ海外の研修所に世界中から集まり、1週間ほどカンヅメになって研修を受けるのは、日々忙しいコンサルタントにとっても結構な負担になります。それが仮想空間で一瞬の移動で実現できるのであれば、確かに働き方改革としては画期的な話です。
そもそもZoom会議は味気ないものですから、メタバースのほうがいいということになれば、この先、普通の会社でもミーティングや打ち合わせ、製品開発からセールスまでリアルなビジネスシーンのかなりの部分がメタバースに移行する可能性は十分にあります。アバターを通じて副業の形でアフター5に別の会社で仕事をする人も出現するでしょう。
同時に今、SNSが担っている個々人のソーシャルネットワーキングも新たに出現するメタバースに移行するはずです。そうなるとメタバースの中にはリアル世界と変わらない新たな経済圏が誕生します。メタバースの中の一等地の不動産価格はリアル世界同様に高騰するでしょうし、メタバースの中のインフルエンサーの影響力は億単位の金銭を生むはずです。メタバースの中でのアバターのファッションアイテムどころか、美容整形市場すら生まれる可能性があります。