今「ブルワリーパブ」が続々とオープンしている。ブルワリーパブとは、ブルワリー(ビール醸造施設)を持ったパブ(酒場)のことだ。このように小さな醸造所がつくる多様で個性的なビールのことをクラフトビールという。
この「ブルワリーパブ現象」は、事業再構築補助金の制度が大きく後押ししている。当人もクラフトビール愛好者である飲食事業者が、自分でオリジナルのビールをつくりたいと思っていても、この設備投資にお金がかかることでこれまで二の足を踏んでいた。それが新制度を活用することで実現できるということだ。
クラフトビールは嗜好品であるから、その愛好者がその店にやってくる。そこでクラフトビールの店は一等立地に構える必要がない。ブルワリーパブ現象とは「大きな設備投資が補助金で可能」「一等立地にある必要がない」という構図となっている。
今日のブルワリーパブ現象の元祖はライナ株式会社(本社/東京都台東区、代表/小川雅弘)である。同社代表の小川氏は1981年5月生まれ。大阪で飲食業を展開していたが、東京でビジネスを行おうと東京に移住し飲食店の展開を始めた。これが2007年のこと。
クラフトビールの存在を知り、この類の飲食店に通うようになり、好きが高じて自身でもクラフトビールレストラン(クラフトビールを仕入れて、それを提供するレストランのこと)を立ち上げた。これが13年に東京・新宿御苑駅近くにオープンした「VECTOR BEER」。さらにこの店の近くに店舗を構えてIPA(ビールのスタイル=種類の一つ)専門のクラフトビールレストランにして、「自分たちでビールをつくってみよう」とその一角にブルワリーを開設した。
このブルワリーは1年足らずで生産量が足らなくなった。そこで17年12月、現在の拠点となる浅草橋にブルワリーと本社機能を設けた。生産量は年間10万ℓとなったが、当時同社のクラフトビールレストランは8店舗あって、これらで使い切っていた。現在同社の飲食店は16店舗あり、うちクラフトビールを提供する店は6店舗となっている。
現在同社で生産しているクラフトビールは、同社の店舗だけではなく他の事業者にも卸している。このうち飲食店は約30店舗、そのほか酒販店やコンビニチェーン、また量販店のリカーショップなど約30店舗の小売店に卸している。
同社で生産するクラフトビールの自社消費と他社へ卸している量の比率は、コロナ流行前は7対3、コロナになってからは3対7となっている。この背景には、コロナ禍によって自社の飲食店の稼働日数が減ったことと、「これから新規に工場をつくって、生産体制を強化するために外販を強くしていこうと考えたから」(小川氏)とのことだ。
ライナのクラフトビールレストランでのビールの価格は、ハーフパイント(270cc程度)450円(税別、以下同)、1パイント(500cc/アメリカンパイント)750円となっている。一般的なクラフトビールレストランでは1パイントが大抵1000円を超えていて、同社の価格は安価である。それは同社が自社でブルワリーを持ち、大量に生産しているからにほかならない。小川氏はこう語る。