駅遠でも客殺到…「ブルワリーパブ」ブームの元祖ライナに聞く、経営成功の秘密

「ブルワリーは装置産業なので固定費をどう落とすかということがポイントです。ある程度設備投資をすると原価は下がる。一人で1日100ℓの仕込みをするのか、500ℓなのか、1000ℓなのか、いずれにしろこの仕事には一日かかる。1回の仕込み量を増やすことによって生産量が上がって固定費は下がる。当社では、このような仕組みをつくったので、クラフトビールの価格を安価で設定できる」

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クラフトビールは樽が空くと別のクラフトビールに切り替えられる。これがクラフトビール愛好者にとって楽しいことだ

 開業事例が相次いでいるブルワリーパブは、当初は1店舗からスタートすることになるが、この場合どのように生産性を維持していていけばよいのだろうか。

「料理人が接客係を担当するという発想で解決できる。つまり、ビールの醸造家が調理や接客も兼務するということ。また、仕込みのタンクを100ℓを3基、5基とするのではなく300ℓを2基のほうがいい。こうすると一月の仕込み回数が減ることになり、同時に生産性が高くなる」

 前述した通り、クラフトビールのファンはとても根強いものがある。そこで、二等立地といわれるようなところで、大きな醸造タンクを入れて仕込み回数を減らし、醸造家が料理も接客もこなし、根強いファンがリピーターになり、お客が回転する、といったようなパターンをつくると確実に生産性が高くなっていく。

 今回、筆者はライナの店に限らずさまざまなブルワリーパブやクラフトビールレストランを訪ねたが、駅から徒歩10分以上離れた住宅街にあっても店内には十分にお客がいた。みなクラフトビールの空間の中でわくわくしている。マイボトルを持参してクラフトビールをテイクアウトするお客もいる。「街のビール屋さん」という光景である。

クラフトビールへの愛着と「遊び心」

 ブルワリーパブの開業希望者が増えてきたことに伴って、ライナではこれに関連するコンサルティングの仕事が増えるようになった。それはまず、クラフトビール醸造家の育成。ここではオリジナルのスタイルをつくるための指導も行う。

 さらに、醸造設備のメーカーと連携するようになった。そこで、ブルワリーパブを開業したい事業者に、醸造施設を開設するノウハウの提供、プラントの設計と納品、醸造家の育成研修、レシピ指導など、フルセットで提供するパッケージを整えることを進めている。これまでそれぞれの金額に不明瞭だった部分が多かったことから、これらをすべてクリアにしていきたいという。「このようなことができるのは、唯一当社だけだと思う」と小川氏は語るが、クラフトビールを商う先駆者が、リーダーとなって業界をけん引している。

 小川氏に「オリジナルビールをつくって販売するときの重要なポイントは何か」と尋ねた。

「味はもちろん大事ですが、ネーミングが重要です。当社では新しいスタイルが出来上がるたびに製造チームが飲みながら話し合って名前を考えています。例えば、当社に『ねこぱんち』というクラフトビールがありますが、これは“強烈ではないが、しっかりとしたパンチがある”というスタイルから名づけられました。こうして『ねこぱんちシリーズ』ができていきました」

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ライナのヒットブランド「ねこぱんち」シリーズ。名称からラベルまで全て手づくりで遊び心がある

「瓶詰する場合はラベルも重要です。当社では自社でつくっています。クラフトビールを買い求めるお客様はジャケ買いをするパターンが多いので、ネーミングとラベルが重要になります」

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ライナ代表の小川雅弘氏。今日のブルワリーパブの先駆者の事業は、これらに関連したコンサルティングへと広がっている

 なんとも遊び心が満載ではないか。「クラフト」とは「手づくり民芸品」という意味だが、今日ではその一つ一つをいつくしむライフスタイルが醸成されてきている。ブルワリーパブ現象は「街のビール屋さん」を定着させていくのではないかと筆者は思っている。

(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)

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●千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。