ロシアのウクライナ侵攻後、日本が巻き込まれる世界経済の大変化…迫られる重大な決断

 中露にとってドル経済圏からの離脱は共通の利益であり、両国は貿易決済の非ドル化を着々と進めている。もっとも現時点における人民元とルーブルの地位は低く、ドルの代わりに用いる通貨はユーロが多い。だが将来、ロシアと中国の貿易がさらに拡大し、その決済を人民元やルーブルで行うことができれば、ドルを介さずにモノとカネを移動させる道筋が見えてくる。

ウクライナ問題を解くにあたって必要となる中国という補助線

 以上を総合すると、国際社会が米欧中というブロック体制にシフトする中、ウクライナ問題が重要な1ピースになっていることが分かる。もし、欧州とロシアとの間でウクライナをめぐる何らかの合意が行われ、かつ天然ガスの供給についても一定の契約が成立した場合、欧州とロシアの関係は再定義されることになる。

 欧州は人権問題なども含め、各国に対して同一の価値観を強く求めてきたが、ロシアとは一定の距離を保ち、互いに干渉しないという暗黙の了解が成立するかもしれない。当然、この枠組みの中には中国が入っており、ロシアは緩やかな形で中国経済圏に取り込まれていくだろう。

 欧州とロシアが一定の距離を置き、中国とロシアの距離が近づけば、経済的にもさらにブロック化が進む。人民元の決済比率が徐々に拡大し、一方で米国のドル覇権もゆっくりとしたペースだが低下すると予想される。各国は再生可能エネルギーの比率を高めることによって、エネルギーの外国依存から脱却でき、政治的にも独自路線を採用しやすくなる。

 米欧中という価値観の異なる国家が、互いに干渉せず併存するという、無機質で冷たい安定体制が到来するわけだが、ここで重大な選択を迫られるのが日本である。日本はすでに中国が最大の貿易相手国となっており、輸出産業に見切りを付けない限り、中国経済圏への依存は避けられない。中国の人民元決済ネットワークには、ロシアの銀行と並んで多くの邦銀が名前を連ねており、金融市場でも中国による取り込みが始まっている。

 米国は米国で、自国中心主義を強化しており、政府調達においても、米国製品の比率を高める大統領令をすでに施行している。これまでのように何でも米国にモノを買ってもらうという戦略は日本にとって描きにくい。国内ではウクライナ問題について、米国とどう協調するのかという短期的な視点での議論ばかりだが、すでに世界は次の段階に向けて動き始めているのが現実だ。

(文=加谷珪一/経済評論家)

●加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。