米国の巨大IT企業・GAFAの一角を占めるフェイスブック(FB)は2021年10月、社名をメタに変更した。同社はメタバースと呼ばれる仮想空間分野へ、1兆円の投資を発表しており、メタバースに注力する姿勢を鮮明にした。
メタバースは英語の「超(meta)」と「宇宙(universe)」を組み合わせた造語。インターネット上で現実に近い体験ができる仮想空間を指す。FBのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は社名変更について、「メタバースはインターネットの新たな章だと信じている。私たちの会社にとっても新しい章になる」と語っている。
メタバースはアバター(自分の分身になるキャラクター)を使って他の人とコミュニケーションを取ったり、一緒に仕事をしたりできる仮想空間のことだ。1億人を超えるユーザーがいるオンラインゲームが先行していたが、近年、新たなSNSや消費空間として注目が集まっている。
メタの参入で話題のメタバース市場に、日本企業も相次いで参戦した。パナソニックの子会社シフトール(東京・中央区)はメタバース向けのデジタル機器、3製品を発売する。1月5日、ネバダ州ラスベガスで公開された世界最大のテクノロジー見本市CESで公開した。メタバースに照準を合わせ、軽さと高解析度の両立で、メタとの差別化を図る。
今春発売する仮想現実(VR)を体験できるメガネ型の端末「メガーヌエックス」は重量が約250グラム。同種製品の半分程度の重さだ。小型化した有機ELパネルを採用し、高精細な映像が楽しめるという。販売価格は未定だが、10万円未満を想定している。「ペブルフィール」(販売予定価格は2万円前後。今春中に発売)は手のひらサイズの冷熱装置。同装置を付けた専用シャツを着ると、首元が熱くなったり冷たくなったりする。
今夏に投入する「ミュートーク」(同じく2万円前後)は口に装着すると音漏れを少なくできるマイク。メタバース内で会話を楽しんだり、公共空間でテレビ会議をしたりする際に自分の声が外に響くことを防げるという。また、ソニーグループは英サッカーの強豪クラブ、マンチェスター・シティと提携し、実際のスタジアムをメタバース上に再現する計画だ。CESでプロモーション映像を公開した。
KDDIもすでに国内でメタバース事業に力を入れている。21年11月、東急グループ4社と「バーチャルシティコンソーシアム」を設立した。実在する都市をモデルにした仮想空間「都市連動型メタバース」の個人認証や、収益分についてのガイドライン策定などを始める。
KDDIは20年5月、東京・渋谷の街をメタバース上で再現した渋谷区公認の「バーチャル渋谷」を立ち上げた。これまでハロウィーンのイベントやサッカー日本代表戦のパブリックビューイングなどをメタバース上で実施し、100万人超が訪れたとしている。
KDDIは大阪府のバーチャル化を受注済み。東京都新宿区など集客力のある都市を対象に仮想空間と連動させた街づくり事業を本格化させる。NTTドコモは21年10月、VRイベントを手がけるHIKKY(ヒッキー、東京・渋谷区)と資本・業務提携を結び65億円を出資した。VRコンテンツを開発するヒッキーは、日本におけるメタバースの牽引役の一翼を担ってきた。コミックマーケットのような巨大イベントをバーチャル空間内で企画。21年8月のイベントにはNTTやJR東日本が出展し、累計で100万人以上が来場した。