「軍がいやがる『攻撃的な戦争』を強いられるというシビリアンの戦争の含意は、パンデミックには応用できません。感染症患者への治療提供は、免許を持つプロフェッショナルとしての医療従事者の本体任務だからです。仮に少しでも含意があるとすれば、医療従事者への差別をしてはいけないということ」(原文ママ、以下同)
「軍が常に正しいわけではありません。歴史上、軍は始まってしまった戦争を拡大したり、勝算がないままに戦争計画を進めたり、文民政治家を恫喝したり、クーデターを起こすこともあります。匕首伝説というものがありますが、これはドイツ帝国軍が戦争に負けたのを、国民のせいにした歴史を指します」
「徴兵制は、最低限の国防を自分たちで担うことで、時に攻撃戦争を避ける誘因を社会に埋め込む効果があります。徴兵はプロフェッショナリズムを否定するものではなく、そもそもプロの軍が国防を拒否するなどということは考えられません。『不要な戦争』をどう拒否するかと言う問題と混同してはなりません」
「エッセンシャルワーカーは清掃からマクドナルドから、トラック運転手、コンビニからスーパーの店員、報道にかかわる人員、自治体や政府の職員など様々です。『現場で手伝え』を言い出すのは有事の際の責任転嫁の匕首伝説に最も近い考え方で、プロはそのような発言をしないよう自らを戒めるべきです」
「それこそが全体主義であり、健全な民主主義を阻害する権力簒奪に用いられる論理だからです。そんなことを言うのならば、医療従事者のうちの誰が、事故後の福島の原発で作業員に働きに行ったのでしょうか。現場至上主義に雪崩を打つ現象は社会にとって危険そのものです。おわり」
朝生での議論やその後の三浦氏の投稿を医療関係者はどう見たのか。東京都内の救急医療センターの勤務医は語る。
「三浦さんはTwitterで『医療従事者のうちの誰が、事故後の福島の原発で作業員に働きに行ったのでしょうか』と投稿されていました。『医師になって働け』とか、『廃炉作業員になって働け』ということではなく、ご自身が常々おっしゃっているように専門性の観点からコロナ診療の現場に一度、立たれてはどうかと思いました。
Twitterの投稿では東京電力福島第1原発事故にも触れていらっしゃいますが、原発事故直後、日本救急医学会は2011年4月に原子力災害現地対策本部(オフサイトセンター)やJビレッジ(福島県楢葉町、東電、国の原発事故前線対応拠点)へ医師を派遣しました。また長崎大医学部は原発立地の双葉、大熊両町に隣接する川内村の復興拠点で、被災者の放射線の健康リスク影響低減のために尽力しました。
学会や大学のみならず、多くの開業医がボランティアとして福島に赴き、被災者や原発作業員を診察し、そこで得た知見を地域や国の医療体制に生かそうと様々な提言をしています。被ばく医療などの専門家でなくても、それぞれの専門診療科の医師が未曽有の災害現場に行き、その知見をフィードバックすることは次の災害の備えのために有用だったと思います。だからこそ、政策論を策定される方、語られる方には『現場に立ってほしい』とは思います」
東日本大震災時に宮城県沿岸に赴き、医療支援活動に従事した兵庫県の内科医師は次のように語る。
「政策論としてどのような意見があってもかまわないとは思いますし、『すべて現場の思うように国の方針を決めるべきだ』という極端な現場主義もどうかとは思います。ただ、必ずしも現場に立つ必要はありませんが、政策決定に携わる方、多くの視聴者の前で持論を展開される方には、現場で働いている人間や状況に対する想像力をもっていただきたいと思うだけです。