オリンパスは2011年に粉飾決算が発覚して以降、ガバナンス(企業統治)改革を進めてきた。19年には「物言う株主」から社外取締役を招いた。顕微鏡や産業用の測定装置などの科学事業を22年4月1日付で分社化する。新会社エビデント(長野県辰野町)が科学事業を承継する。分社後、第三者に売却する方針だ。
科学事業はオリンパスの祖業である。21年3月期の売上高は959億円で全体の13%を占めている。主力の内視鏡事業の売上高営業利益率は25%だが、科学事業は5%と低い。科学事業は東京都八王子市に開発拠点、新会社の本社となる長野県辰野町などに生産拠点を置く。関連人員は国内に1600人、海外に2200人。人員削減はしない。
300億円を上限とした自社株買いも発表した。オリンパスは19年8月、ソニーが保有していたオリンパス株の取得を目的に総額933億円の自社株買いを実施している。
「役員の間に会社を私物化する意識がまん延し、株主に対する忠実義務などの意識が希薄だった」。粉飾決算に関する第三者委員会の報告書はオリンパスの病理を、こう指摘した。12年4月、笹宏行前社長の下でガバナンス改革が始まった。取締役の半数以上を社外取締役にし、監査役会設置会社ながら任意で指名委員会などを置いた。
だが、ガバナンス改革は即、業績向上につながらなかった。15年、米国で内視鏡を媒介とする院内感染が発生するなど不祥事が続く。スマートフォンの台頭でカメラ事業は赤字が続いた。19年4月1日、社長が交代した。竹内康雄氏が社長兼最高経営責任者(CEO)に就任した。オリンパス株を5.04%保有する筆頭株主、バリューアクト・キャピタル・マネジメントからロバート・ヘイル氏を取締役として受け入れたことが産業界で話題になった。6月開催の株主総会でロバート・ヘイル氏は正式に就任した。
バリューアクトは米サンフランシスコに本拠を構えるアクティビストファンド(物言う株主)として著名な存在だった。物言う株主を取締役として迎え入れるのは日本企業として極めて珍しい。併せて指名委員会等設置会社に移行し、経営の監督と執行を明確に分離。社外取締役の比率を3分の2以上に引き上げた。
事業の選択と集中で医療分野へ特化し、株主の視点が強化された。20年、新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化した。20年1~3月期は74億円、4~6月期は27億円、7~9月期は199億円の最終赤字を出した。
苦境から脱出するために資産売却やM&A(合併・買収)を積極化させた。21年1月、デジタルカメラを中心とする映像事業を投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP、東京・千代田)に売却し、撤退した。関連する人員は全世界で約4270人だ。
映像事業の20年3月期の売上高は前期比10%減の436億円、営業損益は104億円の赤字。ミラーレス一眼カメラを強化、生産拠点の再編に取り組んできたが3年連続の赤字だった。スマートフォンなどの台頭でデジタルカメラは世界的に需要が減少し、直近10年間で営業黒字となったのは1度だけ。累積損失は1000億円に達し、市場関係者から売却の要求が強まっていた。
一方、医療機器事業のM&Aを加速させた。20年8月、内視鏡の視認性を高める器具を展開する英アーク・メディカル・デザインを買収(買収金額は非公表)したのを皮切りに、11月、整形外科関連の仏エフ・エイチ・オーソ(金額非公表)、12月には呼吸器の製品を手がける米ベラン・メディカル・テクノロジーズを354億円で買収した。