コロナ禍による巣ごもり需要の影響もあり、現在「鬼滅の刃」を筆頭に空前の漫画ブームが到来している。2020年の紙と電子の合計から算出したコミック市場が推計6126億円と、1978年の統計開始以来過去最大の市場規模になったことが発表されているのだ。
そんななか、昨年9月22日に集英社が運営する漫画誌アプリ「少年ジャンプ+」が、漫画ネーム制作サービス「World Maker」を発表。“絵が描けなくても漫画がつくれる”をウリにリリースされたサービスで、発表当初SNSでは大きな話題を呼び、さまざまな意見が飛び交っていた。
無数のパーツを組み合わせてオリジナル漫画ネームがつくれるため、絵が描けない人でも問題ないということらしいが、World Makerとは具体的にどういったものなのか。そして、World Makerをリリースした「少年ジャンプ+」編集部にはどんな狙いがあるのか。コンテンツプロデューサーで敬和学園大学人文学部准教授のまつもとあつし氏に話を聞いた。
漫画業界でいうところの「ネーム」とは漫画の設計図のようなもので、コマ割りをしてセリフを書き、大まかな絵も描くというものだが、World Makerでは何ができるのだろうか。
「最初にユーザーが文章を書いて脚本をつくります。その脚本でWorld Makerを使うと、テキストに沿ってコマ割りがある程度自動的に行われ、そこにキャラクターを置いていくといったように自分でカスタマイズすることができるのです。
手書きでネームを描く際は、キャラクターがどっちを向いているか、どういう表情をしているかといった構図が重要視されていましたが、World Makerならあらかじめ用意されたキャラクターを、簡単にタッチ操作で配置していくことができる。漫画の設計図であるネームを極めて手軽に、スマホだけで制作することができるようになったわけです。
これまでネームを描くというのは、漫画家の先生がご自身で描いていたり、漫画のことをよくわかっていて、かつネームを描ける漫画原作者が描いたりしていたのですが、その裾野を広げるためにWorld Makerが生まれたのだと考えています」(まつもと氏)
漫画のネームを描くには、基本的には絵は汚くても問題はないのだが、それでも最低限の絵心や知識は必要だった。けれどWorld Makerがあれば、それらがなくて大丈夫ということか。
World Makerがリリースされてまもなく「World Maker ネーム大賞」が開催され、SNSでも多くの反響が寄せられていた。World Makerでつくったネームを応募して大賞を受賞すると、賞金が出るのはもちろん、そのネームを元にプロの漫画家が漫画にして、「少年ジャンプ+」に掲載するというものだ。「少年ジャンプ+」編集部にはどんな狙いがあるのか、まつもと氏はこう推測する。
「ネームを描ける原作者を発掘するための、新たな才能を見つけたいという狙いは明確にあるでしょう。World Makerのターゲットは絵よりも物語を極めたいという人なわけです。例えば、これまでは小説投稿サイトに小説を投稿していたタイプの人が、このサービスを使えば漫画表現に近いところで自分が考えた物語や世界観を提示することができますよね。
漫画家になりたいという人よりも、優れた物語を世に送り出したいといった脚本家やシナリオライターの人たちが、文字というかたちだけでなくネームというかたちでプレゼンテーションできるようになるので、「少年ジャンプ+」編集部はそういった層を漫画業界に取り込んでいきたいということでしょう。大賞賞金が30万円であったり、読み切りの掲載を確約していたりということから、ただの“お試し”という意味合いでは開催していないはずです。