ロイターは10月22日、アップルが電気自動車(EV)向けバッテリーの調達先として中国のCATL(寧徳時代新能源科技)、BYD(比亜迪)と行ってきた協議が行き詰まり、パナソニックが新たな検討対象の一つとなっていると報じた。
CATLは米中の政治的緊張やコストの面から米国に工場を建設することに応じられないと通告。BYDはすでにカリフォルニア州に電池工場を持っているが、アップルに特化した製品開発チームを編成することはできないと断った。関係者の話として伝えた。
“アップル・カー”をめぐる報道ではロイターが先行している。2020年12月21日、アップルが24年のEVの生産開始を目指し、車載電池技術の開発を進めていると報じた。21年6月8日、アップルが中国の電池大手であるCATL、BYDの2社とEV用の車載電池の調達に向けて交渉していると伝えた。交渉は初期段階で、アップルは電池メーカーに対し米国に製造拠点を設けることを取引の条件としているとした。
アップル自身はEVのデザインや設計に特化し、生産は車メーカーへ委託する方向とされ、韓国・現代自動車傘下の起亜等が提携先として急浮上した。CATLは中国の自動車メーカーのほか、独フォルクスワーゲン(VW)、トヨタ自動車、米テスラといった世界の自動車大手と車載電池の供給で提携している。
アップルのEV開発計画をめぐっては、プロジェクト責任者が同社を去った。米フォード・モーターは8月7日、米テスラやアップルで自動車開発を担ったダグ・フィールド氏を先進技術部門の責任者としたと発表した。28年ぶりの古巣への復帰となる。
フィールド氏はテスラのEV「モデル3」の製造責任者を務めた後、18年にアップルに移り、開発中のアップル・カーのプロジェクトで中心的な役割を担ってきた。EV開発のプロジェクト責任者が去り、車載電池の確保もままならないとなれば、アップル・カーの計画はさらに後退すると予想される事態となる。
ブルームバーグは11月18日、アップルが完全自動運転に対応するEVを早ければ25年にも発売する可能性があると報じた。運転操作のためのハンドルやペダルをなくし、乗員が向かい合って座るリムジンのような座席配置を目指しているという。それではアップル・カーの生産委託先の自動車メーカーや、車載電池を供給する電池メーカーはどこになるのか。
「アップルがアップル・カーへの車載電池の調達先としてパナソニックを挙げた」とするロイターの報道を受け、パナソニックの電池事業トップの只信一生氏が10月25日、報道陣の取材に応じた。2022年4月の持ち株会社体制への移行に伴い電池事業は独立した事業会社となり、只信氏が社長に就く。
只信氏は「リソース(経営資源)が分散しないのであれば、米テスラ以外との(取引の)拡大について否定するものではない」とし、「いろいろなメーカーとの付き合いについて、さまざまなことを検討している」と述べた。
同時に、次世代の大型電池「4680」を初公開した。「4680」はパナソニックの主要顧客であるテスラが構想し、20年9月に発表した新型の電池である。現在、パナソニックがテスラ向けに量産している「2170」に比べると電池容量は5倍、出力が6倍になるうえ、パック化せずに車体に直接組み込むことができる、工程を減らせるのでコストの削減につながるという。
只信氏は「(4680は)緊密なパートナーシップを結ぶテスラの強い要望で開発している。テスラと商売することが前提だ」とテスラからの期待の高さを明らかにした。テスラのイーロン・マスクCEOは10月に開催された株主総会で、年内にも稼働予定のテキサス工場で生産予定の「モデルY」向けに、「4680」の量産を始めると発表している。