関西スーパー株主総会で疑義浮上の異常事態、オーケーが裁判所に差し止め請求

 13時50分、会社関係者が、着席している株主席を回り、回収用の透明なプラスチックの箱で投票用紙を集め、13時55分、議長から投票用紙の回収が完了したので会場閉鎖を解除し15時まで休憩にするとの説明があったという。集計作業は14時5分ごろから始められ、15時10分ごろには総会検査役のもとに「議決権行使集計結果報告書」が交付された。

 今回の株主総会では、H2Oとの経営統合に関する1号議案から3号議案まで出席株主の議決権の3分の2以上の特別決議を必要する議案だったが、その「議決権行使集計結果報告書」は1号議案(65.71%)、2号議案(65.74%)、3号議案(65.76%)といずれも3分の2に届いていなかった。

 否決という結果を確認した総会検査役は15時20分ごろに議場に戻り、検査役のために用意されていた座席に着席した。本来、ここで経営統合議案は否決になって株主総会が終了するかに見えた。

否決から可決への変更

 ところが、総会検査役が議場に戻っているなかで、15時40分ごろ、ある男性が受付に来て、自分はマークシートに記入せずに白票を投じたが、どのような扱いになっているのか確認したいとの申し出があったという。申し出を受けた会社関係者は、その場で弁護士を呼び、その株主から話を聞いた弁護士は総会検査役を呼びに行ったという。そして、15時45分ごろ、集計結果を確認して議場に戻っていた総会検査役は関西スーパーの代理人弁護士に別室に呼び出された。その別室には、件(くだん)の男性株主がいた。一部報道によると、この男性は関西スーパーが設立した業界団体に所属する山口県にあるスーパーの代表者とされ、関西スーパーとは親密な関係の株主ともいえる。

 この株主いわく、議決権行使書つきの委任状ですべての会社提案に「賛成」で事前に郵送していたが、議事の内容を聞くために総会に出席したのだという。関西スーパーは傍聴のみの株主にはモニター席を用意していたが、この男性は議長らの生の声が聞きたいと総会への出席を選び、投票用紙や出席票の交付を受け総会会場に入場したという。

 受付で提示した職務代行通知書にも「賛成」と記載していたが、あろうことか、この株主は、総会会場ではマークシートを白紙で提出している。議長から繰り返された「マークシートを白紙で出せば棄権とみなされる」という説明は聞いていたという。

 白票として出されたこの株主の投票は、総会検査役が確認した集計結果では当初「棄権」扱いになっていたが、関西スーパーの弁護士は、議決権行使書や委任状で「賛成」欄に〇をつけていることなどから、この白票を「賛成」として取り扱うことにしたと総会検査役に説明したという。不思議なことに、この間、議長はもちろん、関西スーパーの責任ある立場の人間は一切介在していない。

 このような経緯で、結局3つの議案はいずれも否決から可決へ変えられた。

3つの疑問

 この報告書を見る限り、多くの謎が浮かんでくる。

・議長の株主への説明と異なる白票の取り扱いが果たして認められるのか。

・投票後1時間40分以上も経ってから、なぜその株主は申し出たのか。その株主に誰かが連絡をすることはなかったのか。

・報告書を見る限り、代理人弁護士だけの判断で白票を「賛成」にしたように見えるが、これだけ重大な判断が議長や責任者の関与なく行われたのか。

 関西スーパー側は「株主様が投票時に示された議決権行使の意思表示を正確に反映して集計を行ったものであり、この取扱いの適法性に何らの疑義もございません」と主張する。

 その一方で、オーケー側は「多くの株主の皆さまが真摯にご検討されてきた中で、このような疑義が生じたことは大変残念。公正を期して司法の判断を仰ぐことにしました」(同社広報担当者)

 果たして裁判所はどのように判断するのか。株式交換は本年 12 月1日に効力発生することから、裁判所の判決はその前に発表されるものとみられている。

(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)

●松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。