国のエネルギー政策の基本方針、「第6次エネルギー基本計画」が10月22日に閣議決定された。2030年の電源構成として、再生可能エネルギー(再エネ)比率は36~38%へと、これまでより10%以上引き上げられた。
理由は明白だ。温室効果ガス(CO2)排出量を30年度に13年度比で46%削減するというのが国際公約になっているからだ。さらに、菅政権では50年にCO2排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすると宣言している。
再エネ比率を大幅に引き上げるとして、では、具体的にどの発電方法が有望なのか。エネルギー政策に詳しい大手シンクタンクの主任研究員によれば、浮体式洋上風力発電だ。洋上風力発電には、風車の基礎を海底に固定する「着床式」と、海上に風車を浮かべる「浮体式」の2種類がある。洋上は陸上よりも安定的に風が吹いており、設備建設のための部材は船舶で輸送するため、道路輸送に比べて制約が少ない。
一般社団法人「日本風力発電協会」によると、日本には着床式の設備容量の潜在力が128GWに対して、浮体式は424GWある。原発や火力など他の電源と比べた場合、実際の電力量は稼働率が違うため単純比較はできないが、浮体式の設備容量としての潜在力は原発約400基分に匹敵する。
風力発電というと、実績で先行している欧米に勝てないという意見もあるが、それは陸上風力や着床式の話。浮体式ならそうでもない。19年時点で浮体式洋上風力発電の導入実績があるのは、イギリス、日本、ポルトガル、ノルウェー、フランスだけで、日本は先頭集団に入っている。欧州では近年、洋上風力の導入量が年に1000~3000MWの規模で増えており、急拡大している。洋上風力発電のこれからの主戦場は浮体式になるのだ。
一方、日本は広大な海に囲まれているにもかかわらず、導入量はまだ約2万kW(20MW)程度に過ぎない。その理由は、従来、日本の沖合の海底は急に深くなる地形のため、洋上風力には不向きとされてきたからだ。しかし、それもやはり着床式の話である。海に浮かべる浮体式なら何も問題はない。
さらに、日本は台風が心配という声もあるが、海外ではハリケーンにも余裕で耐えている。例えば、17年10月から稼働しているスコットランド沖の浮体式洋上風力発電「Hywind Scotland」は、2度の大嵐による突風や8.2メートルもの波高の直撃を受けたにもかかわらず、その後も安定稼働している。浮体式は地面に固定されていないので、むしろ地震や高波などの影響も受けにくい。
浮体式は、日本では長崎県五島市沖で10年から実証実験が始まり、16年には2MWと小規模ながらも商用運転が始まった。また、余剰電力を利用して水素を製造、貯蔵、利用する実証実験も15年から行われている。こういう実験は世界でも類がない。
浮体式洋上風力は機器・部品数が1万点を超え、事業規模は数千億円に上るなど、大きな経済波及効果が見込まれる。国内での部品調達比率は60%が目標だ。日本はもともと、建設、造船、鉄鋼、コンクリート、化学など浮体式に関わる要素技術を持つ産業群を抱えており、日本企業が先行しているのだ。
例えば、日立造船は浮き風車が載る土台の新工法を開発しており、23年の実用化を目指している。五洋建設は洋上風力発電建設に必要なSEP船(自己昇降式作業台)の建造を推進しており、昨年10月に資金調達のためグリーンボンド100億円を発行した。
洋上風力には政治的にも追い風が吹いている。19年4月、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行された。これに伴い、発電事業者は最長30年間、利用海域を占有することが可能となった。同法に基づき、五島市沖は促進区域のひとつに指定され、開発事業者として戸田建設、ENEOSホールディングス、大阪ガス、関西電力、INPEX、中部電力の6社が選ばれた。