株式分割を考慮すると、餃子の王将は06年2月期から20年2月期まで実質15年連続増配。21年2月期も前年同様18円、22年2月期中期は12円の1株当たり現金配当を見込んでいる。このことから、固定ファンが継続的に利用することがいかに企業経営を支えているか知ることができる。
餃子の王将は立地という利便性の高さだけではなく、固定ファンをくすぐる販売戦略を実行している。一般的には競合同士とみられる餃子の王将と日高屋(運営会社:ハイデイ日高)には、実は大きな違いがある。日高屋のメイン客は「ちょいのみ日高屋」を軸とする店内飲食である。また、使用頻度の低いと思われる割引券や低価格の昼弁当など価格戦略が中心であり、自店舗の顧客を対象とした優遇施策はあまり見られない。企業として顧客の囲い込みに関しては、餃子の王将が数段上を行っている。
ハイデイ日高は10月7日、22年2月期第2四半期決算説明会資料のなかで中期的な取り組みを発表した。主な施策としては、テイクアウト・デリバリーのさらなる強化やロードサイド店舗の出店強化だが、時短営業による影響も併せて発表している。コロナ前は20時までの売上は1日の60%を占めていたが、関東の1都3県を中心に店舗展開をしているため、コロナによる時短営業やアルコール類の提供禁止は全店舗に大きな影響を及ぼした。多くの店舗が駅前立地であることから、時短営業だけでなく在宅ワークも業績悪化に拍車をかけることとなった。ビジネス街のランチ需要が蒸発したことが最大の原因といっても過言ではないだろう。
日高屋のテイクアウトは顧客に浸透したとはいいがたい。月別推移をみると、売上自体は昨年6月から右肩上がりで伸長しているものの、売上高に占める割合はようやく12%を超えた水準である。9月の月次を見ても客単価は前年同月比85.5%、客数は71.6%と振るわない。駅前立地と店内飲食を中心に据えた同社は、ちょい飲み需要に大きく支えられていたとみることができる。
駅前立地ゆえ必然的に店舗面積が限られることから、厨房スペースが狭く「ワン鍋」を採用している。「ワン鍋」とは、厨房内で調理に使用する中華鍋が一つであることであり、中華鍋を使用するメニューについては一度に調理できる量に限りがあるということを意味する。日高屋のデリバリーは出前館と提携しており、来店客のピークとデリバリーのピークタイムの重複を低減させ、中華鍋の稼働を平準化することがデリバリー需要の取り組みに対する課題として挙げられる。
今後の取り組みにおいても、同業他社と比較して周回遅れの感は否めない。コロナ禍における販売戦略としては、テイクアウトやデリバリーの強化という代わり映えのしない表現にとどめている。
餃子の王将と大きく異なるのは、顧客に特化した戦略が見当たらないという点である。日高屋の配布する割引券は、多くの顧客にとってそれほど魅力があると映ってはいない。割引券であればアークランドサービスホールディングスの運営する「かつや」の100円割引券がわかりやすく、多くの顧客に恩恵をもたらしている。それでも足繫く通う原動力には少しもの足りない。なぜなら割引券は訪問する店舗やチェーンが決まっていないときに、選択肢として上位に上げる動機付けにはなるが、決定打ではないからだ。
リピーターや常連客を増やすためには、価格にかかわらずほかの店と比較して「目に見える優位性」があり、客が「大切にされている」と感じられる仕掛けが必要ではないだろうか。たとえば航空会社のマイレージ上位会員はほかの顧客と差別化され、専用ラウンジの利用や優先チェックイン、座席のグレードアップなどの恩恵を受けられる。外食業では見過ごされがちだが、顧客満足度を最大化するということは、最も重要な営業戦略ではないだろうか。
10月25日に日本フードサービス協会より発表された外食産業市場動向調査によると、9月の全体動向は「緊急事態宣言等が続き外食業は依然深刻な状況」だという。アルコール類の提供など各種制限が緩和・解除され、夜の街も賑わいを取り戻しつつあるが、コロナ禍で各種対策を率先して実施してきた飲食店はまだまだ楽観できないだろう。第6波に備え引き続き感染予防に心がけ、飲食店と生産者、そして消費者がWIN-WINの状態を築いていくことを筆者は切に願う。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)
●重盛高雄/フードアナリスト
ファストフード、外食産業に詳しいフードアナリストとしてニュース番組、雑誌等に出演多数。2017年はThe Economist誌(英国)に日本のファストフードに詳しいフードアナリストとしてインタビューを受ける。他にもBSスカパー「モノクラーベ」にて王将対決、牛丼チェーン対決にご意見番として出演。最近はファストフードを中心にwebニュース媒体において経営・ビジネスの観点からコラムの執筆を行っている。